ケースコントロール研究 Case-control study とコホート研究 Cohort study
ケースコントロー研究とは、コホート研究とは
●ケースコントロー研究はRetrospective Studyである。すなわち、解析を行う時点で解析は過去に向かって行われ、後ろ向きである。言い換えると、すべての事象がすでに起こってしまった過去のことを解析する。What happened?を問う研究といえる。通常はある疾患に罹った者と、そうでない者、あるいはある病態にあるものと、そうでない者が過去においてどのような危険因子にさらされたことがあるのかを調べる。
●一方、コホート研究は解析を現在から未来への向き、つまり前向きに行われる。つまり、Prospective Studyである。What will happen?を問う研究といえる。つまり、ある危険因子にさらされた者とそうでない者が将来どのような病気に罹患するか、あるいはどのような病態になるのかを研究する。
また、必要な医学的情報がきちんとそろっていて、記録がきちんとなされていれば、その記録に基づいて、Historical Cohort StudyあるいはRetrospective Cohort Studyを行うことは可能である。この場合もすべての事象はすでに過去に起きてしまっているが、解析の時間軸における向きを過去から現在への向きで前向きに行うことは可能である。つまり、過去においてある危険因子にさらされた者とそうでない者が現在までにどのような病気に罹患したか、あるいはどのような病態になったのかを研究する事が出来る。
いずれも観察的研究 Observational Study に分類されるが、その真理を導き出すパワーはまったく異なることを十分理解しておく必要がある。そして何よりも臨床においてはすべてWhat will happen?が問われ、Prospectiveである。すでに過去において起きてしまったことを今変えようとしても変えられない。これから起こることなら今何かをすることによって変えられるかもしれない。それが、診断であり、治療である。その時に拠り所となる科学的真理がわれわれには必要なのである。つまり、過去あるいは今起きたことから未来を予測することをわれわれは行っているのであるから、前向きに解析した結果に基づいて考える方が間違いが少ないだろうということは想像がつく。もちろんProspective Studyであっても、データがそろってから解析する時点ではすべての事象は過去のものになっている。したがって、過去のデータから未来を予測するという点では変わりないとも言えるが、そのデータの解析の時間軸における向きがケースコントロール研究では実際の臨床の場で行われていることとは逆向きなってしまうので、間違いが起きやすくなるだろうということは直感的に理解できるはずである。過去に起きたことに基づいて未来を予測するということに関しては、「リスク:神々への反逆」P.バーンスタイン著(日本経済新聞社)を読まれるとおもしろいとおもう。経済学の分野の話なのだが、統計学の歴史がよく分かり、医学における統計学と同じなので驚いてしまう。
ケースコントロール研究の欠点
1.ケースコントロール研究からえられる情報は限定されており、疾患の発生率 Incidence、存在率 Prevalence、あるいは寄与リスクなどを求めることは出来ない。
2.ケース群とコントロール群はある疾患の有無、あるいは病態の有無によって分けられるので、一度に扱える結果因子は一つにかぎられる。(これに対し、コホート研究では同時に数多くの結果因子について調べることが出来る)。
3.最大の欠点は、結果にバイアスの影響が入り込みやすいので間違った結論を導き出す可能性が高いという点である。
サンプリングバイアス:ケース群とコントロール群の対象者が選び出される過程で入り込むバイアス。例えば、生き残りバイアスというのがあるが、これは現在の調査対象にその疾患ですでに死亡された患者さんは含まれないために起きてくる。それだけではなく、ある疾患に罹っている患者全体=母集団からわれわれが病院で診ることになる患者さんがどのように選ばれているかを考えてみるだけでも分かるバイアスがある。医療機関を受診しない患者、別の医療機関を受診した患者、診断がついていないまたは誤診されている患者、診断前に死亡あるいは軽快してしまった患者をわれわれは調査対象とすることが出来ないのである。
これらの欠点を出来るだけ小さくする方法もいろいろ考案されている。たとえば、サンプリングバイアスに対しては、1)ケース群とコントロール群を同じ方法で選び出す、例えば、院内コントロール Hospital Controlを使う、2)マッチングを行う(性別、年齢、その他の因子を合わせる)、3)複数のコントロールを用いる、4)地域住民をベースにしたサンプリングを行う、などである。測定バイアスに対しては、1)結果が生じる以前のデータを使用する、2)盲検化する、つまり、患者かコントロールかを知らないで調べる、検体をコード化して調べるなど、の方法がある。しかし、さまざまな交絡因子の影響を調整することは非常に難しいし、未知の交絡因子がある可能性も常にあるのだから、ケースコントロール研究には限界があると考えるべきである。測定バイアス:過去に起きたことを調査するので、予測因子の測定に不確実性が伴いやすい。
これらの欠点があるので、ケースコントロール研究は稀な疾患に適用される方法と考えるべきであって、それ以外には真理をもたらす方法であるとは考えるべきではないと思う。ケースコントロール研究でえられた結果に基づいて、より信頼性の高いコホート研究をデザインして次のステップに進むことを考えるべきである。(稀な疾患に対してはコホート研究は時間と費用がかかりすぎてしまう。)
コホート研究の利点
1.追跡観察するので事象の発生順序がわかる。
これらに加え、Prospectiveに行われるコホート研究では:
2.予測因子の測定バイアスが少ない。
3.生き残りバイアス survivor bias がない。
4.複数の結果因子を同時に調べられる。
5.結果因子の発生数が時間と共に増大する。
6.発生率 Incidenceに関する情報、リスク比 Risk Ratio、リスク差 Excess Riskがえられる。1.研究開始前に対象者の選択をコントロールできる。
また、Retrospective Cohort Studyでは:
2.研究開始前に、測定項目や方法をコントロールできる。1.経費が少なくて済む。
などの利点がある。ケースコントロール研究に比べると、1)時間がかかる、2)経費がかかる、3)症例数が多く必要できちんとフォローしないといけないので、一言でいうと大変であるが、ずっと真理に近づける研究手法であるといえる。
2.研究期間が比較的短くて済む。コホート研究をデザインする時点でケースコントロール研究や横断研究 Cross-sectional studyで調査すべき予測因子がある程度分かっていたら、それらを含めて研究をデザインすれば良い。しかし、まったく新しくコホート研究をデザインしようとした場合には、何が予測因子なのかを創造的に考え出さなければならない。したがって、研究が成功しないリスクも高くなるのは当然である。一方ケースコントロール研究はカルテを引っ張り出して調査したり、患者と健常者で何らかの因子を測定して比較したりすると、容易に研究成果をあげることが出来る。しかし、それによってえられる結論はあくまでヒントに過ぎず、Prospective Studyへとステップを進めるべきものである。丹後先生の言葉を借りれば「そのヒントが正しい可能性はおそらく1割にも満たないと考えられるからである。(中略)今日の医学会の学会発表はこのような超低打率の発表が氾濫し、研究者もその情報公害に汚染されているといったら言い過ぎでしょうか?研究のABCをきちんと教えられる医学教育体制の改革が必要です」ということになる。
実際の例
さて、文献紹介のFulminant Hepatitisの項で紹介した、CH C患者におけるA型肝炎が劇症化しやすいという、New England Journal of Medicineに掲載された論文について考察してみよう。
Sandro Vento, et al: Fulminant Hepatitis Associated with Hepatitis A Virus Superinfection in Patients with Chronic Hepatitis C. N Eng J Med 1998;338:286-90. PMID: 9445408; UI: 98092073.
595のCH Bと432例のCH CをProspectiveにフォローしてA型肝炎の発生を調べたら、CH Cでのみ劇症肝炎が17例中7例発症した。CH Bは10症例A型肝炎を発症したが劇症肝炎の症例はなかった。
なぜこの論文が高く評価されN Engl J Medという”超一流医学雑誌”に掲載されたのか。実際この論文をめぐって、多くのディスカッションや反論が同誌に後で掲載されている。多分皆さんも不思議に思われたのではないか。しかし、この論文にはプロスペクティブにきちんと症例をフォローしたからこそ明らかになった事実が述べられているのである。
ケースコントロール研究であれば、劇症肝炎の症例と急性肝炎の症例を比較することになる。そして、CH CでA型肝炎に罹った例がどれくらいいるかを調べ、劇症肝炎群と急性肝炎群での割合を比較する。つまり、頻度とさらにオッズ比を求めることになる。今まではそのような解析しか行われてこなかったし、そのような研究からはCH C患者がA型肝炎に罹ると劇症化しやすいという事実は導き出されることはなかったわけである。ケースコントロール研究では劇症肝炎の症例にはHAV感染によるものもあれば、HBV感染によるものもあり、薬剤性のものもあり、CH CにHAV感染が加わったものもあり、CH BにHAV感染が加わったものもあり、その他のものもあり、急性肝炎の症例の場合も同様であって、これらの割合を比較することになる。これらのデータからCH CあるいはCH BがベースでHAが感染した人だけに着目すると、劇症肝炎例でCH BにHAV感染が加わったものはゼロまたはほとんどゼロで、急性肝炎例では少しはあって、劇症肝炎例でCH CにHAV感染が加わったものは少しあって、急性肝炎例でも少しあるというような結果が得られるはずである。この論文の症例数をそのまま当てはめると下のような表になる。
これをFisher's exact probability testで解析するとP=0.022となるが、サンプルサイズから考えると、間違っている可能性、つまり、αエラー(Type 1のエラー)の可能性も高いと言わざるをえない。さらに、全体としては急性肝炎の症例数の方が劇症肝炎の症例数よりはるかに多いはずであり、CH C + HAとCH B + HAの症例だけに着目するということは普通まずないのではないか。そこで、両群全体で比較すると、まず差がなくなってしまうのではないかと思う。また、発生率を求めることは出来ないというのもよく分かるはずである。
Fulminant Hepatitis Acute Hepatitis CH C + HA 7 10 CH B + HA 0 10 それよりもまず、劇症肝炎と急性肝炎の症例のサンプリングの段階でかなりバイアスが入る可能性があり、まずこのような結論を導き出すことは出来ないのではないかと思う。
ところが、この論文ではProspective Studyを組んだために新しい事実を発見するに至ったのである。しかし、この研究をデザインする段階で、”C型慢性肝炎患者がHAにかかると劇症化しやすい”という仮説が正しいかどうか、よく分からなかったのであるから、この研究が失敗するリスクもかなり高かったはずである。そのような研究を皆さんならあえてやりますか? この研究結果が正しいことをさらに確認するにはValidation Studyを別のセッティングで行って、同じ結果が得られれば良い。
コホート研究とケースコントロール研究のデータを見る向き
ここで、B型急性肝炎とB型劇症肝炎でPre-core変異株が劇症肝炎を引き起こすかどうかを検討する仮想の研究を考えてみる。今までこのテーマに関する報告はケースコントロール研究である。つまり、B型劇症肝炎の患者とB型急性肝炎患者の一部でPre-core変異株の頻度を調べた研究で、劇症肝炎に変異株が有意に多かったという研究である。B型急性肝炎患者の一部といったのは急性肝炎の症例の方がずっと多いのでその一部の症例を一応ランダムに抜き出して調べたということである。それは、Pre-coreの変異を調べるのは大変なのであまり多数例を調べられないという理由もある。
さて、臨床の場で知りたいことはどういう事かというと、来院した患者がB型急性肝炎だと分かった時にPre-coreの変異の有無を調べて、変異株がドミナントだという結果が出たら、その患者が劇症肝炎になるのかどうかを予知できるかということである。この考え方はProspectiveである。そのためには、ランダムに選択されたB型劇症肝炎の患者とB型急性肝炎患者でHBVのPre-coreの変異を調べて、その後フォローして劇症肝炎になるという事象にPre-coreの変異が寄与しているかどうかを調べる、コホート研究=Prospective Studyを行う必要がある。
もし、B型の劇症肝炎と急性肝炎のすべての症例のデータがそろっていると仮定してみる。実際にはそのようなことはありえないが、ある医療機関(複数で構わない)を受診した症例はすべてデータがあると仮定する。そして、そのデータをケースコントロール研究とコホート研究ではどのように解析するのかを例示してみたい。(劇症肝炎はその頻度が急性肝炎の300分の1だと仮定しておく。また、変異株の出現率はここでは今までの報告に基づいてはいるが任意に決めてあるので正確な医学的事実ではないことをお断わりしておく)。
(これはカイ二乗検定でP<0.001で有意に劇症肝炎で変異株が多いといえる。)
Acute hepatitis Fulminant hepatitis Pre-core mutant 50 28 Wild type 8950 2 ケースコントロール研究の場合は、急性肝炎になった患者9000例中50例が変異株で、劇症肝炎30例中28例が変異株であったというように考える。従って、Odds Ratioオッズ比=28x8950/50x2=2506となる。
コホート研究の場合は、逆に、変異株だった78例の内28例(36%)が劇症肝炎になり、野生株8952例の内2例(0.02%)が劇症肝炎になったというように考える。従って、Risk Ratio(リスク比)=28/78÷2/8952=1607となる。すなわち、変異株だった場合その患者さんは野生株の場合と比べて、1607倍劇症肝炎になる率が高いという意味である。(上記のオッズ比はこのリスク比の値とほぼ同じ値になっているが、一般的に適切なケースコントロール研究から求められたオッズ比は、その因子に関してリスク比と同じ意味を持つと考えて良い。丹後先生もこの点を強調されているので下記文献を参照のこと。)
この違いが分かっていただけるであろうか。ケースコントロール研究ではすでに劇症肝炎あるいは急性肝炎になってしまった患者さんたちを入院時にさかのぼって、つまり、時間軸で後ろ向きに変異株だったのか野生株だったのかを調査している。一方コホート研究では入院時に変異株だった人と野生株だった人をフォローして、その後、劇症肝炎になったのか急性肝炎になったのかを、つまり、時間軸で過去から未来への方向で調査している。
この仮想研究の例からも、ケースコントロール研究ではサンプリングが結果に大きく影響するということが分かると思う。もし、劇症肝炎15例、急性肝炎15例を調べたとして、9000例のAH症例から15例をランダムに抜き出して、30例のFHから15例をランダムに抜き出して、比較するというのはなかなか難しいはずである。コホート研究であれば、ある医療機関を受診した患者を順次エントリーしていけば良いのでサンプリングは地域的な差の影響を受ける可能性はあってもサンプリングによる問題ははるかに小さくなる。劇症肝炎はどちらかというと稀な疾患なのでこの仮想研究のようなコホート研究を実行するには大変な費用がかかるであろうが、それを除けば十分実行可能である。この例の場合どちらの手法をとるべきかは難しいところである。
もう一つ、この仮想研究のように、データがきちんとそろっていて、記録がきちんとしていて、患者のサンプリングに問題がなければ、Retrospective Cohort Studyの対象として十分使えるということも理解できると思う。したがって、医療記録をきちんとつけるということは非常に大切なことであるし、同じデータでもコホート研究とケースコントロール研究では時間軸における見る方向が異なることが分かると思う。
文献:
丹後俊郎:医学統計フォーラム。研究の種類に応じたデータのまとめ方 - 統計的方法適用以前の化学研究者としてのセンス -。日本消化器病学会雑誌 1998;95:412-8.)
スティーブン・B・ハリー、スティーブン・R・カミングス編著:医学的研究のデザイン:研究の質を高める疫学的アプローチ。(木原正博監訳、現代疫学研究会訳)。医学書院MYW、1997年。)
P.バーンスタイン著、青山護訳。リスク:神々への反逆」、日本経済新聞社、1998年。
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