「HCV・HBVスクリーニング」
神奈川歯科大学付属病院 内科 森實敏夫
Toshio Morizane, MD
ポイント
・ 健康診断のように事前確率が低い場合にはHCV抗体の半定量法を施行し、中力価はさらにHCV RNAを検査する。
・ 事前確率の高い場合には、第II/III世代HCV抗体検査を施行し、陽性の場合、HCV RNAアンプリコアモニター法を施行し、その結果が陰性の場合にはさらにアンプリコア定性法を施行する。
・ HBVスクリーニングでは事前確率の低い場合にはHBs抗原を測定する。事前確率の高い場合にはHBc抗体も同時に測定する。さらに、HBV DNAを測定する。
C型肝炎等緊急総合対策
わが国の厚生労働省は、C型肝炎等緊急総合対策の一環として、肝炎ウイルス検診を保険事業の健康診査に追加し、肝炎ウイルス検診等実施要領を定め、平成14年4月1日から適用することになった。この肝炎ウイルス検診は厚生労働省班会議の平成13年度中間報告[1]に基づいている。一般検診、人間ドックなど、事前確率が低い対象者の場合には、これに準じてスクリーニングを行えばよいであろう。
各市町村保険事業の健康診査対象者の内、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳および70歳の者(節目検診)及び、過去に肝機能異常を指摘されたことのある者とGPT値により要指導とされた者が肝炎ウイルス検診の対象者となる。ただし、過去に当該肝炎ウイルス検診を受けたことのある者は対象としない。この肝炎ウイルス検診の対象となるのは、おもに自営業者や主婦などの国民健康保険加入者で、職場で健診を受ける機会のない40歳以上の2,800万人である。
さらに、社会保険庁は中小企業に勤める人やその家族が加入する政府管掌健康保険の健診事業に同様の肝炎ウイルス検診を導入することを決めた。加入者は3,700万人で40歳以上が1,100万人いる。また、大企業に勤める人たちが加入する健康保険組合についても同様の肝炎ウイルス検診導入の勧奨を行っている。
住民健診の受診率は2001年度で30%であった。政府管掌健康保険の健診事業でも受診率は30−40%である。各企業の健診の受診率は100%近いところが多いと想像される。広報活動を通じて、受診率を上げることが出来れば、現在35歳から70歳までの人たちの全員が肝炎ウイルス検診を受けることも可能な体制が作られつつある。
肝炎ウイルス検診の内容は、1)問診、2)C型肝炎ウイルス検査;ア.HCV抗体検査、イ.HCV核酸増幅検査(NAT、Nucleic Acid Amplification Test、Polymerase Chain Reaction、PCRの一般名)、3)HBs抗原検査である。結果の通知は、“現在、C型肝炎ウイルスに感染しています”、“現在、C型肝炎ウイルスに感染していません”、HBs抗原検査判定結果“陽性”、“陰性”といった文面でなされる。
HBV・HCVスクリーニング
上記中間報告は、HCVのスクリーニングの推奨する検査手順として、3つの方法を挙げている(表)。いずれも、HCV抗体の力価を半定量的に測定し、高力価群はHCVに感染している、陰性又は低力価群はHCVに感染していないと判定する。その中間の、中力価群は2次スクリーニング検査として、核酸増幅法を実施し、その結果によって判定を行う。
表 HCVスクリーニング
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検査手順 |
第1次スクリーニング |
結果 |
第2次スクリーニング |
結果 |
判定 |
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1−1 |
HCV PHA法* |
抗体低力価または陰性:25以下 |
不要 |
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感染していない |
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抗体中力価:26〜212 |
核酸増幅法** |
陰性 |
感染していない |
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陽性 |
感染している |
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抗体高力価:213以上 |
不要 |
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感染している |
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1−2 |
HCV PA法 |
抗体低力価または陰性:24以下 |
不要 |
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感染していない |
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抗体中力価:25〜211 |
核酸増幅法 |
陰性 |
感染していない |
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陽性 |
感染している |
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抗体高力価:212以上 |
不要 |
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感染している |
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2 |
HCV抗体(AxSYM法) |
抗体低力価または陰性:15未満 |
不要 |
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感染していない |
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抗体中力価:15以上100未満 |
核酸増幅法 |
陰性 |
感染していない |
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陽性 |
感染している |
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抗体高力価:100以上 |
不要 |
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感染している |
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2 |
HCV抗体(Lumipulse法) |
抗体低力価または陰性:10未満 |
不要 |
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感染していない |
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抗体中力価:10以上50未満 |
核酸増幅法 |
陰性 |
感染していない |
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陽性 |
感染している |
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抗体高力価:50以上 |
不要 |
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感染している |
*PHA法(Passive hemagglutination、受身赤血球凝集法)とPA法(Particle agglutination法、粒子凝集法)を1−1,1−2と分けて示してある。**アンプリコア定性法など高感度の方法を用いる。
HCV抗体価に基づいてHCV感染の有無を判定する根拠として、献血者を対象とした検討から、26HCV PHA価、もしくは25HCV PA価以下のHCV抗体低力価群では、全例HCV RNAが陰性であること、傍証として、全国の日赤血液センターが、1999年2月以降、献血者のスクリーニングレベルを26HCV PHA価、もしくは25HCV PA価以上に設定し、これ以上の輸血用血液を排除するシステムを採用してから、輸血後C型肝炎がわが国からほぼ消滅するに至ったことが挙げられている。
肝炎ウイルス検診のHBVスクリーニングについては、HBs抗原の定性的検査を行うことが定められているが、特に測定法は指定されていない。PA法(粒子凝集法、8倍未満は陰性)あるいはCLIA法(化学発光免疫測定法、0.05 IU未満が陰性)が用いられているが、後者の方が高感度であり、検出感度は0.13ng/mlで、WHOの標準抗原に基づき、IU/mlの単位で表示される。
事前確率が高い場合
一般に用いられているHCV抗体−II/第二世代は抗原として、コアタンパクのC22、非構造領域NS3のC33、同じくNS4のC100を用いており、HCV抗体−III/第三世代はさらに、NS5の抗原を加えている。後者の感度が高いが、感染の既往を検出する割合が高い。これらのHCV抗体検査法は、ごく低力価のHCV抗体をとらえてしまうことと、抗体過剰域では測定値が低下することにより、抗体の判定量的測定系としては不適であり、HCV RNA陽性、すなわちHCVキャリアであるかどうかの判定には不十分である1。一般献血者を対象とした場合、これらの検査でHCV抗体陽性の結果が得られた被験者のうち約75%はHCV RNA陰性であり、約25%のみがHCV RNA陽性である。すなわち、事前確率が低い、一般人を対象にした場合には、偽陽性率が高く、陽性的中率が低い。一方で、1)肝障害が認められる、2)輸血、血液製剤、免疫グロブリンを投与された既往がある、3)刺青やピアスをしている、4)静脈麻薬の使用歴がある、5)経鼻コカイン吸入歴がある、6)静脈麻薬使用者とのセックス、6)血液の付着したもので刺したり切ったりした、7)宗教的儀式で傷を付けた、などのリスクファクター[2]を有する場合には、HCV感染の事前確率が高いため、これら第II世代あるいは第III世代のHCV抗体検査を用いても陽性的中率は高くなり、実用性は高い。
HCV抗体が陽性の場合には、HCV RNAアンプリコア−モニター(検出限界103コピー/ml)またはHCV核蛋白測定(検出限界104コピー/mlに相当)を行う。これらは、定量的な方法であり、ウイルス量を知ることが出来るので、治療の適応の判定に参考になる。これら定量法が陰性の場合には、HCV RNAアンプリコア−定性法(検出限界102コピー/ml)を施行する。定性法の方が感度が高いため、定量法で陰性の場合でも、陽性になることがありうる。この場合には、HCVに感染しているがウイルス量が低値と判断される。
HCV抗体が陽性でHCV RNAが陰性の場合には、時期をかえて測定を繰り返し、結果を確認する必要がある。それでもHCV RNAが陰性の場合には、HCV感染の既往、技術的な問題によるHCV抗体偽陽性、輸血などにより受動的にHCV抗体を獲得した(これは現在極めてまれ)、母親から新生児に抗体が伝わった、ウイルスの血液への出現が間欠的である、HCVが肝細胞や単球などの細胞にのみ存在する、ウイルス量が検出限界以下あるいは何らかの技術的問題、などが考えられる。また、血液透析を受けている患者、臓器移植患者など、免疫抑制状態にある場合には、HCVに感染していてもHCV抗体が陰性のことが多い[3]。
HBVの場合には、HBs抗原をスクリーニングするが、HBVに感染していても劇症肝炎の一部のようにHBc抗体のみが陽性の場合もある。HBV感染の事前確率が高い場合には、IgM HBc抗体とIgG HBc抗体の両者を測定する。陽性の場合には確認のために、HBV DNAの測定が必要になる。リアルタイムPCR法によるHBV DNAの定量法は定量下限が32コピー/mlと、TMA(transcription mediated amplification)法(検出限界5000コピー/ml=3.7LGE/ml)、分枝鎖DNAプローブ法(検出限界7 x 105コピー/ml=2.1pg/ml)に比べるとはるかに高感度である。しかし、検出下限付近での再現性がやや悪い。また、まれにHBs抗原の抗原決定領域に変異があるため、HBs抗原が陰性の場合もある。この場合にも、HBV感染が否定しきれないときには、HBV DNAの測定が必要になる。
文献
[1]平成13年度厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業)「肝がんの発生予防に資するC型肝炎検診の効果的な実施に関する研究」−C型肝炎検診の実施方法の確立に向けた検討−中間報告(平成13年12月、主任研究者吉澤浩司広島大学医学部衛生学)。社会福祉・医療事業団の運営するWAM NETの厚生労働省情報(http://www.wam.go.jp/kousei/index.html)から“肝がん”で検索すると出てくる全国老人保健事業担当者会議(平成14年2月22日)のページを開き、参考資料4)「肝がんの発生予防に資するC型肝炎検診の効果的な実施に関する研究」中間報告書のPDFファイルを開く。
[2] Murphy EL, Bryzman SM, Glynn SA, et al.: Risk factors for hepatitis C virus infection in United States blood donors. NHLBI Retrovirus Epidemiology Donor Study (REDS). Hepatology 2000; 31:756-62.
[3] Pereira BJ and Levey AS: Hepatitis C virus infection in dialysis and renal transplantation. Kidney Int 1997;51:981-99.