High-Density DNA Arrays:"DNA Chips"
    8600個の遺伝子の発現を経時的に捉える

    Scienceの1999年1月1日号にhigh-density DNA arrays ("DNA chip")を用いて約8600個の遺伝子の発現をヒト線維芽細胞で捉えた研究が発表されました[1]。培養液に血清を添加しないで48時間線維芽細胞を培養すると、細胞増殖はストップしてG0期に入りますが、そこに血清を加えると血清に含まれるさまざまな成長因子などの作用を受けて増殖が始まります。その際の遺伝子の発現を24時間後まで12時点で捉えた研究です。従来の方法では数種類多くて数十種類位の遺伝子を調べる事しか出来ませんでした。つまりNorthernブロット法です。しかし、この研究では8613個の遺伝子の発現を同時に捉えることに成功しています。その結果、線維芽細胞は血清添加により細胞増殖に関する遺伝子を発現するだけでなく、創傷治癒に関係する遺伝子も発現していることが見出されました。それ以外にも多数の遺伝子が発現したり、逆に発現が抑制されたりしていることが分かりました。このような極めて多数の遺伝子の発現を経時的に多くの時点で観察することを可能にした革命的な技術が"DNA chip"です。

    "DNA chip"とは

    "DNA chip"は1991年にAffymax Research Institute (Palo Alto, CA, USA, 現在のAffymetrix, Santa Clara, CA)のStephen P. A. FodorとDuke大学、Stanford大学の研究者たちが行った研究により開発されました[2]。この技術はDNAだけでなくPeptideをシリコンあるいはガラスの表面で任意の異なる配列で同時に合成する方法で、1.28 cm x 1.28 cmの面積に一つが20μm四方のグリッドを640x640=40万9千60百個格子状に並べ、それぞれのグリッドには400万コピーのOligonucleotideあるいはPeptideを保持させたチップを作成します[3]。格子を作るのはそのような枠を作って光を投射することによって行います。もともと、コンピュータのチップではシリコンウエハースにレーザー光で回路を作成しますが、それにヒントを得て考え出されたもののようです。最初にシリコン表面をAdenine, Cytosine, Guanine, Thymidineに結合するリンカー分子でコーティングし、そこに光をあてるとはずれるキャップ(Nucleotideの場合5'側にnitroveratryl基)を付けたA, C, G, Tの一つ結合させます。その後、格子の任意の場所に光をあてキャップをはずし、次のNucleotideを結合させます。この過程を繰り返すことにより、任意のグリッドに任意の配列のOlidonucleotideを作成することが出来ます。例えば、8塩基のOlidonucleotideで6万5千種類の異なるものを32サイクルで作成することが出来ます。このようにしてReference DNAを格子状に配列したDNA chipにFluorescein(緑色)あるいはPhycoerythrin(赤色)(Biotinを介在させる場合もある、あるいはCy3-deoxyuridine triphosphate, dUTP, Cy5-dUTPを使用)でラベルしたTargetつまりcDNAなどを結合させて蛍光顕微鏡で観察し、コンピュータでIntensityのデータを取り込み、どの部位が反応しているかを調べます。言い換えると、SourthernブロットあるいはNorthernブロットをマイクロチップの上で高密度で行うことが出来る方法です。

    (文献2より改変して引用)

    "DNA chip"への取り組み

    "DNA chip"はアメリカのベンチャーを中心にビジネス界でも大変な注目を集めており、Affymetrixだけでなく、Hyseq Inc. (Perkin-Elmerと提携)、Incyte Pharmaceuticals、Nanogen、Clinical Micro Sensors (CMS)、Millennium Predictive Medicine (MPM)、diaDexus (SmithKline BeechamとIncyteのジョイントベンチャー)といった新しい会社が次々と作られている。これについては文献[4]を参照して下さい。"DNA chip"は医学研究だけでなく製薬、診断法の開発に不可欠であり、従来の方法論は過去のものになってしまう可能性が高い。日本では"DNA chip"の作成、スキャンに必要な機器が数箇所に導入されているらしい。

    文献[5-7]はScienceに掲載されたものであるが、これ以外に多くの論文が発表されている。Single-nucleotide Polymorphismsはさまざまな疾患のリスクを捉えたり、さまざまな疾患の遺伝的背景を解明することにつながる[5]。病原体の遺伝子をスキャンすることによって、薬剤耐性に関与する遺伝子を解明したり[6]、将来は検出された病原体の薬剤耐性を治療開始前に知ることも可能になるであろう。また、抗癌剤の開発においてもその薬剤In Vitroで作用させた際にどのような遺伝子が影響を受けるのかを調べることが出来、従来の薬剤と比較することによって、開発のスピードアップが期待される。 また、重要なことはHuman Genome Projectでは塩基配列は明らかにされても、その機能が今のところ不明の遺伝子が次々に発見されています。これらの配列、特にEST:Expressed Sequence Tag、発現タグ配列をReference DNAに含めることによって、未知の遺伝子の機能が明らかにされる可能性もあるということです。

    ここで取り上げた以外の文献につき文献集を作成したので参考にされたい。

    また、文献[1]のFig. 2の元データはWeb上に掲載されており、http://www.sciencemag.org/feature/data/984559.shlおよび、http://genome-www.stanford.edu/serumを参照できる。


    [1] Iyer VR, Eisen MB, Ross DT, Schuler G, Moore T, Lee JCF, Trent JM, Staudt LM, Hudson Jr J, Boguski MS, Lashkari D, Shalon D, Botstein D and Brown PO:  The Transcriptional Program in the Response of Human Fibroblasts to Serum.  Science   1999; 283:83-87.  UI: 0  PMID: 0009872747 ◎

    [2] Fodor SP, Read JL, Pirrung MC, Stryer L, Lu AT and Solas D:  Light-directed, spatially addressable parallel chemical synthesis.  Science   1991; 251:767-73.  UI: 91118013  PMID: 0001990438  ◎

    [3] Chee M, Yang R, Hubbell E, Berno A, Huang XC, Stern D, Winkler J, Lockhart DJ, Morris MS and Fodor SP:  Accessing genetic information with high-density DNA arrays.  Science   1996; 274:610-4.  UI: 97002455  PMID: 0008849452  ◎

    [4] Service RF:  Microchip arrays put DNA on the spot [news; comment].  Science   1998; 282:396-9.  UI: 99012906  PMID: 0009841392  ◎

    [5] Wang DG, Fan JB, Siao CJ, Berno A, Young P, Sapolsky R, Ghandour G, Perkins N, Winchester E, Spencer J, Kruglyak L, Stein L, Hsie L, Topaloglou T, Hubbell E, Robinson E, Mittmann M, Morris MS, Shen N, Kilburn D, Rioux J, Nusbaum C, Rozen S, Hudson TJ, Lander ES and et al.:  Large-scale identification, mapping, and genotyping of single- nucleotide polymorphisms in the human genome.  Science   1998; 280:1077-82.  UI: 98248615  PMID: 0009582121  ◎

    [6] Winzeler EA, Richards DR, Conway AR, Goldstein AL, Kalman S, McCullough MJ, McCusker JH, Stevens DA, Wodicka L, Lockhart DJ and Davis RW:  Direct allelic variation scanning of the yeast genome.  Science   1998; 281:1194-7.  UI: 98378583  PMID: 0009712584  ◎

    [7] Chu S, DeRisi J, Eisen M, Mulholland J, Botstein D, Brown PO and Herskowitz I:  The transcriptional program of sporulation in budding yeast.  Science   1998; 282:699-705.  UI: 99000795  PMID: 0009784122  ◎
     

    [8]君塚房夫、加藤郁之進:DNAチップ技術とその応用 -ゲノムの機能解析にむけて‐。蛋白質・核酸・酵素1998; 43:2004-11。



    [What's New in Heponweb!][What's New in Hepatology!][Return to Techniques in Hepatology] [Return to Home Page]