![]()
「上腹部超音波検査の役に立つ臓器の呼吸性移動」 東邦大学医学部第二内科 住野泰清 1998.7.15
呼吸による肝臓,膵臓の動き,およびそれによる検査野の変化について主に述べさせていただく.提示した写真は,ヘリカルCTを用いて約20秒間の息止め中に撮影した画像を Aが右鎖骨中線,Bが腹腔動脈起始部を通る面で再構築して得られた健常成人の腹部矢状断CT像である.
![]()
Aについて:呼吸中間位の肝前縁は肋骨弓の高さまたはそれより上方にあり,肋骨弓下から肝を観察することは困難である.胸式深吸気では肝前縁がわずかに肋骨弓下にせり出すことにより,右葉ドーム部を含む肝実質の観察が可能となる.しかし,肝下面に消化管ガスが近接して存在する場合,後下区域の観察が不十分となりやすい.腹式深吸気では肝が最も下方に変位するため,十分な視野を得ることができる.息を吸わずに下腹部をふくらませると,肝は肋骨弓下にせり出し観察可能となるが,視野は胸式深吸気と大差ない.ただし,写真からもわかるように吸気による胸郭前後径の増加がないため,深部肝実質の観察を行いやすい.
Bについて:膵臓は胃,横行結腸の後方に位置し,それら消化管のガスにより観察困難な場合が多い.従って検査に際しては,ガスをよけてアコースティックウィンドウを得るために患者の呼吸をコントロールすることが重要になる.呼吸中間位および胸式深吸気では,腹壁直下に胃のガスがあり,膵臓はちょうどその後ろに隠れてしまうため観察困難である.コンベックス型またはセクタ型の探触子で強く圧迫すれば胃のガスを潰すようにわけて膵臓を観察することができるが,膵およびその後方に位置する脾静脈も圧迫してしまうため,それらの自然な形態を観察することはできない.また探触子で圧排しきれないガスにより,視野はきわめて狭い.
腹式深吸気では,上腹部臓器全体が下方へ変位し,胃のガスが膵臓の前面からはずれるため,膵の観察は容易となる.しかし,膵も他臓器より少ないとはいえ呼吸により変位するため,十分な視野が得られるとは言い難い.一方,息を吸わずに下腹部をふくらませると,上腹部臓器が下方へ変位することに変わりはないが,胃はより下方へと変位し,肝左葉が膵臓の前面に覆い被さる形となるため,広範囲に渡る膵臓の観察が可能となる.なお,後腹膜臓器でありかつ,横隔膜の動きの影響を受けにくいと思われる膵体部の中央付近でも,呼吸に伴いおよそ1.5椎体ほど変位することを知っておくべきである.
以上より,上腹部超音波検査に際して良好な視野を得るためには,腹式深吸気または息を吸わずに下腹部をふくらませるのがよい方法と思われる.しかし,これらの動作は必要以上の腹部緊張をもたらす場合が多く,探触子と皮膚の十分な接触が得られなくなることがある.一つの呼吸法にこだわらず,各症例,各臓器の観察に適した方法でアコースティックウィンドウを作りだし,見落としのない,精度の高い検査を心がけることが肝要である.ここに示した一連の写真がその一助となれば幸いである.
<文献>
住野泰清(分担):腹部超音波(スクリーニング・肝) pp 54-73,ベテランに学ぶ肝胆膵疾患の診療のコツ(藤田力也,与芝真監修),メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,1997.
[Return to Imaging Archives] [Return to Techniques in Hepatology] [Return to Home Page]