「腹部超音波検査(スクリーニング・肝)のコツ」page 1
東邦大学医学部第二内科 住野泰清 1997.10.9
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★スクリーニングのコツ
@テレビモニターの条件を自分の好みに合わせる.
Aモニターに写ったものと同じ条件の画像が記録できるように記録装置を調整する.
B視野を広くし,モニターの一点を注視しない.
C画像を記録する時以外は,探触子を持つ手の動きを止めない.
D常に正常像を思い浮かべ,それと比較しながら検査を進める.
E患者の呼吸を自由に操る術を身につける.
F検査手順を身体で覚え,途中で病変を見つけてもそれに心を奪われず,同じ集中力で検査を完遂する.
G病態の解明に役立つ検査を心がける.
<はじめに>
筆者が上司の命で腹部超音波検査をはじめたのは今からおよそ17年前,ちょうど電子走査リニア型実時間標示装置が世に出始めた頃である.それまでの装置といえば超音波ビームを1本だけ放出する探触子で身体をなぞりBモード断層像を描出する,いわゆるコンタクトコンパウンドスキャンが一般的で,良い診断を得るためには職人芸が必要であったため,日常臨床の場で広く利用されるには至っていなかった.
ところが「誰でも胆嚢を描出できる」という危険なキャッチフレーズとともに電子走査型実時間標示装置が出現するやいなや超音波検査は瞬く間に普及し,今や肝胆道系疾患の診断に欠くことのできない検査法となった.もちろんそのバックグラウンドには診断装置の並々ならぬ進歩があるわけで,様々な形状の探触子や広帯域型探触子など体外からより良い画像を得るための工夫にとどまらず,深部臓器に近づいて解像度の高い画像を得るための体腔内走査装置,血流情報を詳細に検討するためのカラードプラ装置など数多くの新たな装置が開発された.
従って,超音波検査というとそれらの新兵器を駆使した精度の高い検査を思い浮かべる諸家も多いことと思われるが,本稿では基本に立ち返り,一般的なBモード断層装置によるスクリーニングを主体に,筆者の施設で行っている方法および留意すべきポイントにつき述べる.
<対象となる疾患と検査の目的・留意点>
対象となる疾患を限るのは難しい.健康診断や人間ドックで一般に行われている検査であることより,強いて言うならば対象は健常を含む全ての人,ということになろうか.
そして目的は,正常か異常かをはっきりさせることである.また異常があればどのような異常であるか,どのような病態が考えられるかを的確に担当医に知らせることが肝要である.現在の超音波検査はそこまで求められていることを知っておくべきであろう.
禅問答のようになってしまったが,もっと具体的に,超音波検査で拾い上げるべき疾患と留意点につき述べる.
1.限局性病変
@肝腫瘤
(原発性肝癌,転移性肝癌,肝血管腫など良性腫瘍,肝膿瘍を含む):
超音波は他の画像診断法に比べ,小さなものを拾い上げる能力が高いとされている.従って,とにかく見つけだすこと,が超音波スクリーニングの使命であろう.検者の能力により検出限界は大きく異なるとされているが,少なくとも直径が1cm以上の高あるいは低エコー腫瘤は拾い上げたいものである.質的診断は,何らかの特徴的な所見が得られればある程度可能であり,またカラードプラを用いた腫瘤内血流の検討も補助的診断法として有用とされている.
鑑別診断の詳細に関しては他項および専門書を参考にしていただきたい.しかし肝腫瘤の超音波所見はきわめて多彩で例外も多く,限られた時間内でのスクリーニング検査では正しい質的診断を得ることは至難であるといってよい.もちろん質的診断を得るべく努力する姿勢は必要であるが,下手な診断がそれを読んだ担当医師に誤った先入観を与え,正診に至るのを遅らせてしまうといったケースにも少なからず遭遇する.たとえば高エコーの肝細胞癌を血管腫と診断すると,明らかに治療開始時期が遅くなる.逆に考えれば超音波検査がそれだけ信頼されているわけで喜ばしいことではあるが,スクリーニングの段階ではまず腫瘤の拾い上げにつとめ,発見したら診断がよほど明らかな場合をのぞき,腫瘤の存在および所見内容を明記するにとどめ,早急に次なる検査に進んでもらうのが妥当と考える.本稿の主旨から少しはずれるが,超音波検査の利点の一つに非侵襲性があげられる.これ故に,頻回の経過観察が可能であり,血腫や膿瘍などでは時々刻々の変化をとらえることが診断の大きな一助となる.また経過観察例においては毎回同じ部位,同じ向きでサイズを計測し知らせるのが重要である.
A肝嚢胞または門脈瘤などの嚢胞性病変:
内部が無エコーの液体でかつ嚢胞壁が厚みを持たず平滑あることを確認し,充実性腫瘤との鑑別を明らかにする.
嚢胞壁に乳嘴状発育を見る嚢胞癌や内腔の凝血塊などは超音波でのみ観察可能なことが多いため注意を要する.
門脈瘤が疑われた場合にはカラードプラによる血流の検討が必要.
B限局性脂肪化,限局性低脂肪域:
超音波検査やCTなど画像診断法発展の申し子のような病変であり,それ以前にはほとんど問題にされなかったものである.これらが認められた場合には腫瘤性病変との鑑別が必要となるのでここに付記しておく.超音波検査では脂肪化は高エコーにまた低脂肪域は低エコーに描出され,ある程度好初部位が決まっていることや周囲血管への影響がないことなどより診断されているが,腫瘤性病変との鑑別は必ずしも容易ではない.
2.びまん性肝疾患
@脂肪肝:
肝腎コントラスト,深部エコーの減衰,脈管の不明瞭化などの所見より総合的に判断する.原因不明の肝障害を検査するに当たっては,脂肪化の有無およびグレード診断が必要であり,経過観察症例においてはグレード診断が主となる.脂肪化のグレードは深部エコー減衰の程度のみでかなり詳細に検討できる.最近の減衰を抑えた装置では無理であるが,古い狭帯域型探触子の装置をお持ちの施設があれば,ぜひお試しいただきたい.
A急性肝炎:
胆汁分泌能,炎症の強さ,門脈圧亢進,低蛋白血症の有無などにより,胆嚢,脾臓の所見が変化する.また大きさや内部エコーの変化によりある程度の重症度判定もできるときがある.
B肝硬変:
肝表面の凹凸,内部エコーの粗さなどから診断できるが,それよりもむしろ脾腫,門脈側副血行路,腹水の有無など門亢症に伴う副所見を拾うことを目的とする場合が多い.また肝硬変が疑われた場合には常に肝細胞癌の合併を念頭に置いた検査を行う.
C高度アルコ−ル性肝線維症・F型肝硬変:
きわめて強いブライトパターンを呈する.しかし脂肪肝と異なり,深部におけるエコーの減衰は伴わない.この所見を覚えておくと,大酒家の診療に際し役に立つことが多い.
以上の4疾患が超音波検査の得意とするところであり,慢性肝炎をはじめとする他のびまん性肝疾患においては,特徴的な所見が報告されていても今のところいわゆるstudyの範疇をでないものが多い.Gold standardである組織検査にせまる情報を得るべくさらなる努力が必要である.
<手技の実際>
一般スクリーニング検査は原則として早朝空腹時に行う.しかし日常臨床の場では,超音波を診断の参考にしたいチャンスが往々にして,時,所を選ばず訪れるものである.病態によっては検査を翌日に回すことも可能であろうが,一般的には施行したいと思ったときにやるべきである.筆者のこれまでの経験では,胆嚢の小病変,膵病変の検査,および研究のために対象症例の条件を一定にする必要があるとき以外は,いつ何時に検査を施行しても診断に困ることはないと考えている.以下に筆者が所属する施設における腹部超音波スクリーニングの手順と留意点を示す.なお患者体位はよほどのことがない限り仰臥位のみで行っている.
@剣状突起下縦走査(図1)
目的:肝左葉の大きさ,とくに剣状突起下に肝がどれだけ張り出しているかを知る.
方法:探触子の一端を剣状突起に当て,肝の後方に腹部大動脈が見えるように向きを調節する.画像の記録は吸気と呼気の中間でおこなう. メモ:深吸気とか,お腹を膨らませてもらうとか,難しい注文をつける前に,自然体で観察できるこの走査から始めることにより,患者さんを必要以上に緊張させることなく,スムースに検査へ導入できるものと考えている.臨床の場では,慢性肝疾患の進行を左葉腫大の程度で推測することが一般的であるが,腹直筋のため触診所見が誤っていることが多く,正しい左葉腫大の判定にはこの画面を欠くことはできない.肝下縁に接する胃前庭部の異常を拾いやすいのもこの画面である.ついでに見ておくと役に立つことが多い.
A右肋弓下胆嚢縦走査(図2)
B右肋弓下胆嚢横走査(図3)
目的:Cと合わせ袋状に立体的に広がる胆嚢の全域を多方向から検討する.
方法:ABの走査は一般的に深吸気の状態でおこなう.胆嚢頸部から底部に至るまで十分に観察した後,それぞれ最大径をとらえて記録する.
メモ:胆嚢のように薄い壁からなる袋状の臓器においては,病変に正面から超音波ビームを当てる場合と接線方向に当てる場合とで所見が大きく異なることが多い.従って多方向からの検討が肝要である.また胆嚢底部は正面からビームを当てることが困難である上に,消化管ガスに囲まれていることが多くブラインドになりやすい.つい最近筆者らもこの部のポリープ癌を見逃したばかりであり,ぜひ注意していただきたい.なお肝腫大や下垂のために胆嚢がはじめから下方へ偏位している場合には,吸気により消化管ガスに隠されてしまう部分が多くなる傾向があるため注意を要する.また全ての臓器についていえることであるが,痩せている患者に探触子を強く押しつけると臓器が変形し,胆嚢などでは内腔が全く観察できなくなることもあるので注意すべきである.
C右肋間胆嚢走査 (図4)
目的:ABと合わせ袋状に立体的に広がる胆嚢の全域を多方向から検討する.
Cの走査では呼吸を吸気から呼気へと種々変化させながら,まず胆嚢頸部そして底部方向へと観察を行う.ABの走査で接線方向になり検討が不十分となりやすい胆嚢側壁の観察をCで補う.またCは肝臓を通して胆嚢を見るかたちとなるため,胆嚢床の検討もこの走査であわせて行う.
D右肋間走査による肝門部および右門脈前枝領域の観察(図5)
目的:胆管拡張の有無,門脈径,門脈走行異常,門脈血栓の有無などの観察.
方法:第9肋間を中心に上下いくつかの肋間を探り,肝門部直下から右門脈前枝までできるだけ長い範囲にわたり門脈域を描出し観察する.肋骨が視野の障害となりやすいため, Cの走査の方法にも述べたように患者の呼吸を操作し肝の位置を動かすことによりそれを補う.
メモ:筆者らの施設では,肝門部から右門脈前枝に沿って引いた直線が肝S8亜区域肝表面と交差する点までの距離を肝右葉の大きさの指標としているが,腹腔鏡やCTで観察される肝の大きさとよい相関を示し役に立っている.ついでに紹介してしまうが左葉の大きさの指標としては,門脈臍部から左葉左縁までの距離を用いている(図E).
肋間から門脈や胆管など細長いものを描出するのは容易ではないが,コンベックス型やセクタ型の探触子は図7のごとくある程度回転させても,肋骨にじゃまされることなく十分な視野を得ることができる.肋間で探触子を回転させている光景を見ることは少ないが,ぜひお試しいただきたい方法である.
E心窩部横走査による膵の観察(図8)
目的:膵実質,膵管,膵周囲の血管およびリンパ節の観察.
方法:一般的に膵は脾静脈・門脈合流部から脾門部にかけて斜め左上がりに,脾静脈の前面を覆うような形で横たわっている.探触子もその走行に従って多少傾け,できるだけ広い範囲の膵を描出しながら観察する.
メモ:膵の前面には胃,小腸,横行結腸など消化管が覆い被さっており,それらの内容物およびガスにより観察は容易でない.膵の観察以前に,それら邪魔者をどけて視野を得る努力をしなくてはならない.脱気水を飲ませ胃に満たすことにより視野を得るという方法がよく用いられるが,時間がかかる上に患者によっては飲水ができない場合もある.そこでお勧めしたいのが肝臓で視野を得る方法である.膵の前に肝臓をもってきて,胃腸を下方へ押しやると同時に肝臓を通して膵を観察するわけである.肝臓を下方へずらすためには深吸気にすればよいのだが,そうするとなぜか後腹膜臓器である膵も程度に差はあるものの一緒に動いてしまい,肝・胃腸・膵の位置関係があまり大きく変化せず,良好な視野を得られないことが多い.そこで筆者が行っているのが,下腹部を大きく膨らませてもらうという方法である.膵も動くのであろうが腸管はより大きく下方へずれてくれるようで,良好な視野が得られる場合が多い(図9).これでもうまくいかないときは,腹痛がない症例に限るが,下腹部を膨らませた状態で探触子を膵部に強く押しつけ,ゆっくりとおなかの力を抜いてもらう.こうすることにより下方へずれた胃腸を探触子で押さえ,膵だけすっと視野にとらえることができる.ただし短いチャンスなので見逃しのないように.これでもだめなときには図10のように患者さんに座位をとってもらい,重力で胃腸と肝臓を下方へ変位させて観察する.このとき背筋をのばしてもらうとより良好な視野が得られるようである.はじめから座位で観察すればよいではないかと思われるかもしれないが,患者さんの体位を変えてもらうにはかなりの時間を要することもある.スピーディで患者・検者ともに負担が少なく,それでいて病態の解明に役立つスクリーニング検査を目指すためには,多少独断的になるが,仰臥位を原則とするのが良いと考えている.
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