研究のタイプが異なる:
Relative Risk 相対危険度はコホート研究から導き出される指標であり、Odds Ratio オッズ比はケースコントロール研究から導き出される指標である。いずれもあるRisk Factor 危険因子を持っている人がそれを持っていない人に比べて、あるOutcome 結果を来す可能性がどれくらい高くなるかを示す指標である。Relative Riskは確率が何倍になるかを示し、Odds Ratioはオッズが何倍になるかを示す。オッズと確率の関係については後で述べる。
まれな疾患を対象にした研究の場合にはケースコントロール研究でしか扱えない場合もあるが、一般的にケースコントロール研究よりもコホート研究の方が信頼性の高い結果が得られる。コホート研究も結果に誤謬が入り込む問題が起きる可能性があるが、ケースコントロール研究に比べると問題が少ない。特にバイアスの問題がケースコントロール研究で起きやすい。だからといってケースコントロール研究がすべて信頼性が低いといっているわけではない。バイアスの問題などを十分考慮し、慎重にデザインされ、実行されてケースコントロール研究は真理に到達する力があると思う。
*Odds ratioのことを"estimated relative risks"あるいは単に"relative risks"と呼ぶ研究者もいるらしいので混同しないように。 また、Relative RiskはRisk Ratio リスク比とも呼ばれる。
コホート研究の場合はRelative Risk:
コホート研究では危険因子を有する者と、有しない者の2群に分けてある結果
Outcomeが起きるかどうかを前向きに Prospectiveにフォローして調べる。従って、研究をスタートした時点ではまだ結果は起きていない。これら2群はその危険因子の有無以外の点で差がなければ、その危険因子の結果に及ぼす影響を容易に明らかにすることができる。その危険因子以外の点で差がある場合でも解析の時点で多変量解析を用いることによって、その危険因子以外の変数を調節してその危険因子の結果に及ぼす影響を明らかにすることも出来る。危険因子と結果の両方に影響を与える因子のことを交絡因子
Confounding variableという。喫煙、年齢などがよく知られた交絡因子である。多変量解析によってこれら交絡因子の影響を調整できることが多いが、未知の交絡因子、あるいは予期していなかった交絡因子の影響が入って来る可能性もある。従って、対象者の選択にあたってはバイアスが入らないようにするだけでなく交絡因子についても十分考えてデザインし実行計画を立てることがやはり重要である。Relative
Riskは以下の式で算出される。 下の表で横に、つまり行が群を形成する。
| Outcome + | Outcome - | |
| Risk Factor + | a人 | b人 |
| Risk Factor - | c人 | d人 |
つまり、Relative Riskは危険因子を持っている人の中である結果が起きた人の割合つまりリスクを、危険因子を持っていない人の中でその結果が起きた人の割合つまりリスクで割った値である。
従って、Relative Riskが1以上になるとその危険因子によりその結果が起きやすいことを意味し、1未満であれば逆にその危険因子があるとその結果が起きにくい事になる。後者の場合危険因子という言い方はおかしな感じがするが、そう言うことになっている。1未満であれば、実際には保護因子のようなものである。ここで結果 Outcomeといっているのはある疾患である事が多いが、健康にプラスになるような事でも良い。
ここで重要な事はRisk Factorのある群もない群もそれぞれの母集団からランダムに抽出されている場合にはその人数にかかわらず発生率は母集団を反映しているという事である。つまり上の式で分子と分母はそれぞれリスクファクターのある群とない群におけるその結果の発生率であり、その値は母集団の発生率に近似している。ケースコントロール研究の場合にはそうはいかないのであるが、後でこの点について述べるので理解を深めて欲しい。
*Outcomeは疾患とか病態、Risk Factorはそれを引き起こす可能性のある因子と考えると理解しやすいかもしれない。また、逆にOutcomeの発生を抑制する因子もRisk Factorと呼ばれることもあるので、これらは統計学上の呼び名であり、実態と異なる場合もある。
ケースコントロール研究の場合はOdds Ratio:
さて、ケースコントロール研究の場合も同じように2分割表 2 by 2 tableを作成してオッズ比を計算する。ここでは、ケースコントロール研究では結果がすでに起きてしまった群とそうでない群の過去における危険因子の有無を調べるという、後ろ向き
Retrospectiveに研究が行われる事をもう一度思い出しておこう。 下の表で縦に、つまり列が群を形成する。上記のコホート研究とは逆になる。
| Outcome + (Cases) | Outcome - (Controls) | |
| Risk Factor + | a人 | b人 |
| Risk Factor - | c人 | d人 |
分子と分母はそれぞれ結果のある群とない群におけるオッズである。オッズというのは確率と同じような概念であり、ある事象が起こる可能性の強さを表すが、表現法が異なるものである。すなわち、オッズはそれぞれの群のなかで危険因子がある人とない人の割合の比である。従って、危険因子のある人の数をない人の数で割り算した値と同じ値になる。次に、オッズの比を計算し、それをオッズ比と呼ぶ。
*もし確率をオッズの代わりに算出するのであれば、それぞれの群の中で危険因子のある人とない人の合計の中に占める危険因子がある人の割合を求めることになる。すなわち、a/(a + c)とb/(b + d)が確率で、それに対して a/cとb/dがオッズである。
一般的にオッズと確率の関係を式で表すと;
Odds = Probability/(1 - Probability)
Probability = Odds/(1 + Odds)
となる。つまり、オッズも確率もある事象 Eventが起きる可能性の多寡を表す指標であり、数値が大きいとその事象が起きやすいことを示し、数値が小さいとその事象が起きにくいことを示す。
オッズ比は相対危険度の良い近似値になるといわれている。がしかし、なぜこの表から上記の如くRelative
Riskに相当する計算をしないでオッズ比なるものを計算するのであろうか。それはケースコントロール研究の場合には結果のある群とそれにマッチするような結果のない群を集めて両群を比較するためである。つまり、結果のある母集団から結果のある群を無作為に抽出し、結果のない母集団から結果のない群を無作為に抽出してきているので、それらを横に結びつけて危険因子のある群とない群を作ってしまうと、それらは危険因子のある群の母集団とない群の母集団を代表しているとは言えないからである。結果のある群とない群の数をどれくらい集めるかは任意であるから、この表で横に合計する事は意味がないことが理解されると思う。
*ケースコントロール研究でコントロール群の方は未だ結果が起きていない人たちであるが、それを構成する人たちには危険因子を持っている人と、持っていない人がいる。もし、その人たちを今後フォローしていって、結果が起きるかどうかを観察した場合にはコホート研究になる。
いずれにせよ、ケースコントロール研究ではそれぞれ結果のある群、多くの場合疾患群、と結果のない群、多くの場合疾患のない対照群、の内部で危険因子のある群とない群を比べる事をせざるを得ないのである。そこで、オッズが計算され、それを結果のある群とない群で比べる事によってその危険因子がその結果に影響を与えているかどうかを調べるのある。 こうすることによって、ケース群とコントロール群の人数の比が人口全体における比を反映していなくても、その危険因子の結果に及ぼす影響を知ることが可能になるのである。
また、上記のコホート研究の場合にも危険因子のある群とない群の数はやはり任意であるから、もしオッズ比を計算してもそれは意味がなくなってしまう。
95%信頼区間:
オッズ比に対しても相対危険度に対してもP値が算出されるが、P値だけでなく95%信頼区間 95% confidence intervalを算出することが必須になっている。P値は差がないという仮説、つまり帰無仮説 Null hypothesisを偶然起きたこととして受け入れる確率を表している。別の言い方をすると、実際に差がないのにサンプル抽出の際に偶然偏りが起きてしまって、差があるという結果が得られる確率を示している。そういう確率が低ければ低いほど、すなわちP値が小さければ小さい程、二つの群が同じ母集団に属する可能性は低くなり、二つの群は異なる母集団に属している可能性が高くなる。
一方95%信頼区間は他のサンプルに対して同じ事を調べた場合にまったく同じ値のオッズ比や相対危険度が得られることはなく、ある範囲に収まってくるのであるが、95%の場合はその範囲に入ることを示している。つまり、オッズ比や相対危険度として算出された値は平均値であって(Point Estimateと呼ばれる)、ある誤差を伴っていると考えれば良い。実際に計算されるのは標準誤差である。ここで重要なことは95%信頼区間が1をはさんだ範囲にある場合にはその因子は結果に対して有意な影響を与えていないと判断されるということである。1の場合にはまったく影響がないということになり、1が95%信頼区間に入っているということは、その因子はP値も0.05超えてしまい有意にならないはずである。
なお、95%信頼限界 95% confidence limits というの95%信頼区間の両端の値のことである。
相対危険度およびオッズ比に対する95%信頼区間は自然対数とExponentialを用いた次の式で計算される。
Odds RatioとRelative Risk計算のためのExcelの表ダウンロード(95%信頼区間も算出される。黄色と橙色のセルに数値を入力すると自動的に計算される。Windows WinZIPの自己解凍型ファイルでファイルサイズ23KB)
オッズ比と相対危険度は相関の指標である:
上記の計算式をもう一度よくみると、いずれの指数も、aとdが大きくなり、bとcが小さくなると値が大きくなることが分かる。別の言い方をすると危険因子のある人はほとんどが結果がある群に入り、危険因子のない人はほとんどが結果のない群に入ると、相対危険度は大きな値になる。一方、オッズ比も結果のある人はほとんどが危険因子を持っており、(あるいは暴露されており)、結果のない人はほとんどが危険因子を持っていない場合に、大きな値になる。もし、bとcがゼロになるとどちらも無限大になってしまう。 その場合には危険因子があると必ず結果があるということになり、危険因子がないと必ず結果がないということになる。しかし医学においてはその様な関係はまずないのではないか。例えば、B型肝炎ウイルスに感染すると肝炎になるかというと必ずしもそうではない。キャリアになる場合もあるし、少なくとも臨床的な肝炎の症状を呈さない人はいる。
従って、オッズ比も相対危険度も二つの因子の間の相関を表す指標と考えることが出来、しかもかなり単純な指標であることが分かる。
オッズ比と相対危険度は原因を証明できるか:
オッズ比と相対危険度が有意と判断された場合にその危険因子がその結果と相関があることはいえるが、その原因であるかどうかはまた別のことである。その危険因子がその結果を持っている個人に偶然によるよりも高い頻度で認められるということが証明されたと解釈すべきである。更に、1)その危険因子の出現が結果より先に起きていることが証明できれば、より原因に近づく。従って、コホート研究は危険因子が先にあり、後で結果が起きるのを観察しているのであるから、原因であることを示す力がケースコントロール研究より強い。ケースコントロール研究ではその危険因子を過去にさかのぼって調べることになるので、いつからその危険因子を持っていたのかは不明瞭になりやすいし、その因子に着目して記録していなければ本当にあったかどうかも不明瞭になることもありうる。
さらに、2)その危険因子を軽くしたり取り除くことによって、結果が起きにくくなったり起きなくなれば、原因の可能性が更に高まる。
これら以外に、3)関連自体の強さ、4)結果のある群での危険因子の認められる割合の高さ、5)生物学的につじつまが合うあるいは説明可能ということ、6)危険因子と結果に量的関係(Dose-response)が認められる、といった副所見があれば、原因である可能性をさらに高めることになる。
コホート研究やケースコントロール研究で明らかにされる因果関係は、結核菌が肺結核の原因であるというような明確な関係ではないことが多い。本来、疾患なり病態を形成する原因が複数あり、外因と内因の両方が関係しているのが普通であるから、それは当然といえば当然である。結核の場合でも、結核菌に暴露された人がすべて肺結核になるわけではない。年齢、栄養状態、免疫状態、菌数、など複数の因子が肺結核を発症するかどうかを決定しているはずである。
複数の因子が結果に及ぼす影響を解析するにはやはり多変量解析 multivariable analysis, multivariate analysisを用いる必要がある。別の項で解説したい。
(1999.2.12 神奈川歯科大学 内科 森實敏夫)
[2] Fletcher RH, Fletcher SW, Wagner EH: Clinical Epidemiology: The
Essentials. (3rd edition), 1996, pp. 215-218. Wiiliams & Wilkins,
Baltimore, USA.