[P6]

  

§2.素粒子の相互作用

相互作用 interaction ;

 素粒子間に働く各種の力の総称である。この素粒子間の相互作用の結果

 として原子核や原子などの多粒子系が構成される。

 相互作用の性質は、素粒子の散乱や崩壊などの素粒子反応に反映される。

 一般に素粒子の相互作用は互いに素粒子(ボース粒子) を交換することによって

 生ずる。

 例えば電子間に働く静電気力は相互作用の一種であり、電子が互いに光子を

 交換することによって生ずるもので、電磁相互作用と呼ばれる。

 また核子間に働く核力は、核子が互いに中間子を交換することにより生じ、

 これは強い相互作用と呼ばれるものに起因している。

結合定数 coupling constant ; 

 素粒子間の相互作用の強さを決める定数のことをいう。

 結合定数により、相互作用はつぎの4種類に分類される。

     種類  

 結合定数の大きさの程度

強い相互作用 strong interaction

   10   

電磁相互作用 electromagnetic interaction

   10-2 

弱い相互作用 weak interaction

   10-14 

重力相互作用 gravitational interaction

   10-38 

 

[例]

 強い相互作用: ハドロンやクオーク間に働き、原子核やハドロンを構成する力.

 電磁相互作用: 荷電粒子間に働き、原子や分子等を構成する力.

 弱い相互作用: β崩壊などの素粒子の崩壊を起こす力.

 重力相互作用: 質量をもつ粒子間に働き、天体系などを形成する力.

強い相互作用 ; 

 ハドロン間の相互作用は強い相互作用に起因する。この相互作用ではハドロン

 のもつすべての量子数が保存される。すなわち量子数が保存されないような

 素粒子反応は禁止される。

 強い相互作用によって起こる素粒子反応には次のようなものがある。

  p+p → π+p+n,

       K+p+Λ0

       K+Σ+n,

       K+K+p+Ξ

  π+p → K+Σ

        K+K+Ξ0  など.

[例] p+p → π+p+n についての量子数の保存 .

 

  左辺 

  右辺 

 Q 

 1+1=2

 1+1+0=2

 B 

 1+1=2

 0+1+1=2

 L 

 0+0=0

 0+0+0=0

 S 

 0+0=0

 0+0+0=0

 I3 

 (1/2)+(1/2)=1

 1+(1/2)+(−1/2)=1 

 

(注) スピン J やアイソスピン I については、単なる和ではなくベクトル和を

    考えなければならない。二個の粒子が軌道角運動量 L を持って相対運動

    しているとき、L と J のベクトル和が保存されるのであって J だけでは

    保存しない。一般にスピン J およびパリテイ P については粒子間の相対運動

    が関与してくるので、粒子の種類だけでは保存則は確かめられない。 

電磁相互作用 ; 

 荷電粒子と光子との相互作用であって、アイソスピン I を除く他の量子数は

 保存される。荷電粒子間に働く静電気力は、荷電粒子が互いに仮想光子を交換

 することによって生ずる。電磁相互作用による素粒子反応には、荷電粒子による

 光子の放出や吸収並びに光子(γ線)によるハドロン生成などがある。

  γ+p → K+Λ0

      K0+Σ

      K+K+p,

      K+K+Ξ

      π+K0+Λ0   など.

[例] γ+p → K+Λ0  についての量子数の保存.

 

  左辺 

  右辺 

 Q 

 0+1=1 

 1+0=1

 B 

 0+1=1 

 0+1=1

 L 

 0+0=0 

 0+0=0

 S 

 0

 1+(−1)=0

 I3 

 1/2 

 (1/2)+0=1/2  

 

弱い相互作用 ; 

 β崩壊は弱い相互作用に起因する。レプトン間やハドロン間、並びに

 レプトン・ハドロンの間で作用し、パリテイ P,アイソスピン I,

 アイソスピンの第3成分 I3 は保存されないが、他の量子数については

 ストレンジネス S を除けば常に保存する。ストレンジネス S は、レプトン間

 の弱い相互作用では保存するが、レプトン・ハドロン間においては保存

 する場合と保存しない場合とがある。またハドロン間の弱い相互作用では、

 S は保存しない。弱い相互作用によって起こる素粒子反応には次のようなものが

 ある。 

 レプトン反応:  μ→ e+ν+νμ

 レプトン・ハドロン反応: n → -ν+p+e  (S  保存),

              Λ → -ν+p+e  (S 非保存),

             π→ μ+νμ   (S 保存),

             K→ μ+νμ   (S 非保存),

 ハドロン反応: Λ → p+π

         Σ→ n+π

         Ξ→ Λ+π

         Ω→ Λ+K

[例]  n → -ν +p+e についての量子数の保存.

 

  左辺 

  右辺 

 Q 

 0

 0+1+(−1)=0

 B 

 1 

 0+1+0=1

 L 

 0 

 (−1)+0+1=0

 S 

 0

 0

 I3 

 −1/2 

 1/2  (I3 は非保存) 

 

重力相互作用 ; 

 質量を持つ粒子間に働く万有引力は、重力相互作用に起因する。

 重力相互作用は他の相互作用に比べて極めて小さく、通常の素粒子反応では

 一般に無視することができる。重力相互作用は、重力子 graviton という仮想的

 な粒子を媒介とする相互作用であると考えられている。

 重力子は質量や電荷を持たず、スピンは 2 のボース粒子である。

 

§3.クオーク模型 

クオーク模型 quark model ; 

 現在までに知られている多種類のハドロンは、さらに少数の基本的な粒子

 であるクオークから構成されていると考える理論で、ハドロンの分類や素粒子の

 高エネルギー衝突現象の説明などに多大の役割を果たした。

クオークquark ; 

 ハドロンの構成要素となる基本粒子の総称で、現在では6種類のクオークが

 知られており、いずれも分数電荷(+2/3 または −1/3)をもち、

 重粒子数 1/3,スピン 1/2 のフェルミ粒子である。

 すべてのクオークはカラー(color)という量子数をもっている。

 クオークのカラーには、ブルー(blue),グリーン(green),レッド(red) の

 3種類がある。異なるカラーをもつクオーク間にはカラーによる強い引力が働き、

 複数のクオークの束縛状態として多種類のハドロンが形成されるものと考えられ

 ている。クオーク間に働く力は、クオークが互いに離れる程大きな引力が働く

 という性質がある。ハドロンは、その構成要素となるクオークのもつカラーの

 総和が互いに相殺するような組み合わせでもってできているので、ハドロン自体

 のカラー量子数は無色となる。クオークはこのようなカラー量子数をもつために、

 クオーク自身は常にハドロンの中に閉じ込められており、クオーク単独で観測

 されることはない。クオーク間の力は強い相互作用の一つで、グルーオン(gluon)

 という基本粒子が媒介する。グルーオンは質量や電荷を持たず、スピンは 1 の

 ボース粒子である。グルーオンは2種のカラーの組み合わせを持ち、全部で

 8種類のグルーオンが ある。

クオークの種類 ; 

 クォーク 

  呼称  

 電荷 Q 

アイソスピンI

Iの第3成分

有効質量   

 (GeV)   

  u  

アップ 

 +2/3 

  1/2  

 +1/2

  0.3  

  d  

ダウン 

 −1/3

  1/2  

 −1/2

  0.3

  c  

チャーム 

 +2/3

   0

   0

  1.5

  s  

ストレンジ

 −1/3

   0

   0

  0.5

  t  

トップ

 +2/3

   0

   0

 175

  b  

ボトム

 −1/3

   0

   0

  5

  

(注) クオークの種類 u,d,c,s,t,b のことをクオークの

    フレーバー(flavor)という。

反クオークの種類 ;

 反クォーク 

 電荷 Q 

アイソスピンI

Iの第3成分

有効質量 (GeV)

  -

 −2/3 

  1/2

  −1/2

   0.3

  -

 +1/3

  1/2

  +1/2

   0.3

  -

 −2/3

   0

   0

   1.5

  -

 +1/3

   0

   0

   0.5

  -

 −2/3

   0

   0

  175

  -

 +1/3

   0

   0

   5

   

[例]

[重粒子]

 重粒子の種類 

 構成クオーク 

 質量 MeV 

  主な崩壊様式   

陽子 p 

  uud 

 938.27 

 安定

中性子 n

  udd

 939.56 

 -νp e  

デルタ粒子  

   Δ++

  uuu 

1230〜1670 

 Nπ, Nππ  

   Δ

  uud 

   Δ

  udd 

   Δ

  ddd 

シグマ粒子

   Σ

  uus

 1189.37 

 pπ, nπ+ 

   Σ

  uds 

 1192.55 

 Λ γ 

   Σ

  dds 

 1197.43 

 nπ 

ラムダ粒子 Λ

  uds

 1115.68 

 pπ, nπ

グザイ粒子

   Ξ

  uss 

 1314.9 

 Λ π 

   Ξ

  dss 

 1321.32 

 Λ π 

オメガ粒子 Ω

  sss 

 1672.45 

 Λ, Ξ π− 

Σ 粒子

   Σ++

  uuc 

 2452.9 

 Λ π+ 

   Σ

  udc 

 2453.5 

 Λ π 

   Σ

  ddc 

 2452.1 

 Λ π 

Λ 粒子 Λ

  udc 

 2593.6 

 pK π 

Ξ 粒子

   Ξ

  usc 

 2465.6 

 Λ π π+ 

   Ξ

  dsc 

 2470.3 

 Ξ π

Ω 粒子 Ω

  ssc 

 2704 

 Σ π+ 

  

[中間子]

 中間子の種類 

 構成クォーク 

 質量 MeV 

 主な崩壊様式 

π中間子

 

  π 

  -du

 139.57 

 μ νμ 

  π 

 -uu−-dd 

 134.97 

 γγ 

  π 

  -ud 

 139.57 

 μ νμ 

K中間子

  Κ

  -su 

 493.67 

 μ νμ 

  Κ , - 

  -ds,  -sd 

 497.67 

 π π, ππ

  Κ 

  -su 

 493.67 

 μ νμ 

D中間子

  D

  -dc 

 1869.3 

 K μ νμ

  D, - 

 -uc, -cu 

 1864.5 

π, K ν

  D

  -cd 

 1869.3

 μ νμ 

B中間子

  B

  -bu 

 5278.9 

 D μ νμ 

  B, - 

  -bd, -db 

 5279.2

 D μ νμ 

  B

  -ub 

 5278.9 

 D μ νμ 

  

(注) 現在 ハドロンに関しては基本粒子クオークから形成された複合粒子と

    考えられているが、その他の素粒子(光子,レプトン,重力子など)は

    現在のところではまだ基本的な素粒子であると看做されている。

    ただし理論上の学説としてはハドロン以外の素粒子も複合粒子であると

    考える研究がある。

 

[例] β崩壊(弱い相互作用)

    n → -ν+ p + e をクオーク模型を用いて表わすと、

    udd → -ν+ uud + e となるので、クオークの反応として考えると

    結局 d → -ν+ u + e のように記せる。

 

[例] 核力(強い相互作用)

    n → p+π をクオーク模型を用いて表わすと、

    udd → uud + -ud  となる。

(注) 一般に弱い相互作用ではクオークのフレーバーが変化するが、

    強い相互作用においてはクオークのフレーバーは変わらずにクオークの

    組み合わせのみが変化する。

 

 


 

 

物理学演習2

次の文章の( )中に適当な語句や式を下欄より選び、その記号を入れよ。

[1] Fermi 粒子はスピンが(  )の値をもつ粒子であり、Bose 粒子は

    スピンが(  )の値をもつ粒子のことをいう。

  (a) 偶数 (b) 奇数 (c) 整数 (d) 自然数 (e) 半奇数 (f) 負の整数

[2] 重粒子数が 0 の値をもつ Fermi 粒子を(  )という。

    軽粒子数が 0 の値をもつ Fermi 粒子を(  )という。

    軽粒子数,重粒子数,スピンが ともに 0 の粒子には(  )

    などが ある。

    軽粒子数,重粒子数,質量がともに 0 の Bose 粒子には(  )

    などが ある。

  (a) 光子 (b)レプトン (c) バリオン (d) 中間子 

[3] 素粒子のもつ量子数の中、反粒子でも符号が変わらないものには、

   (  ),(  )がある。

  (a) 電荷 (b) 重粒子数 (c) 軽粒子数 (d) スピン (e) アイソスピン

  (f) アイソスピンの第3成分 

[4]  Bose 粒子の場合、その反粒子のもつ(  )の符号は粒子と同じで

    あるがFermi 粒子の反粒子については逆符号となる。

  (a) ストレンジネス (b) ハイパーチャージ (c) パリテイ (d) 電荷

[5] 粒子と反粒子が全く同一となるような素粒子には、

   (  ),(  )などがある。

  (a) 電子 (b) 光子 (c) 陽子 (d) π中間子 (e) 中性子

[6] 質量mの粒子と反粒子が対生成されるためには(  )以上の

    反応エネルギーが必要である。ただしcは真空中の光速度である。

  (a) mc (b) mc (c) 2mc (d) 2mc2 (e) m22 (f) 2m22

[7] ハドロン間にのみはたらく相互作用は(  )である。

    β崩壊を起こす相互作用は(  )である。

    ハドロンのもつすべての量子数が保存される相互作用は

   (  )である。

    粒子が互いに光子を交換することによって生ずる相互作用は

   (  )である。

    質量をもつ粒子間には必ず存在する極めて小さい相互作用は

   (  )である。

    パリテイが保存しない相互作用は(  )である。

  (a) 電磁相互作用 (b) 弱い相互作用 (c) 強い相互作用 (d) 重力相互作用

[8] 陽子と中性子のアイソスピンの値は(  )であるが、その第3成分は

    陽子では(  ),中性子では(  )の値をもつ。

    中間子 π,π,π のアイソスピンの値はいずれも(  )の値を

    もつが、その第3成分については π が(  ),π が(  ),

    π が(  )の値をもつ。

  (a) −1 (b) 0 (c) 1 (d) −1/2 (e) 1/2 (f) −2 (g) 2

[9] 約1MeVのエネルギーをもつ電子と陽電子が衝突すると、対消滅し

    2個の(  )になる。

  (a) 陽子 (b) 中性子 (c) 光子 (d) π中間子 (e) ニュートリノ

[10] 基本粒子であるクオークの電荷は分数値(  )または(  )をもち、

     さらに重粒子数についても分数値(  )をもつ。

     また クオ−クのスピンは(  )の値である。

  (a) 1/6 (b) 1/3 (c) 1/2 (d) 2/3 (e) −1/6 (f) −1/3

[11] クオークの種類数は(  )つ あり、それぞれのクオ−クはカラーという

     量子数をもっている。このカラーの種類数は(  )つ である。

  (a) 2 (b) 3 (c) 4 (d) 5 (e) 6 (f) 7

[12] クオーク間には(  )という基本粒子が媒介する力(強い相互作用)

     が働き、クオークの束縛状態としての素粒子である(  )が構成される。

  (a) 光子 (b) レプトン (c) ハドロン (d) グルーオン  

[13] グルーオンの電荷は(   )であり、スピンの値は(  )である。

  (a) 1 (b) 2/3 (c) 1/3 (d) 0 (e) −1/3 (f) −2/3

[14] 重力子の電荷は(  )で、スピンの値は(  )であると考えられ

     ている。

  (a) 2 (b) 1 (c) 1/2 (d) 0 (e) −1/2 (f) −1

 


 

演習問題2の答については、講義ノート[P5]と[P6]を参照して下さい。

  

ここまでの内容についての質問等は下記宛に御願いします。

hattorit@kdcnet.ac.jp