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第2章 素粒子
§1.素粒子 elementary particle
素粒子は、あらゆる物質や力の根源的構成要素であるところの最小単位の
粒子であり、その大きさは 10 −13 cm 以下のスケールである。
素粒子の衝突散乱過程についての近似計算などでは、素粒子は拡がりを持たない
点状の粒子として取り扱われる。現在では数百種類の素粒子が知られているが、
その大部分は不安定で他の安定な素粒子に崩壊転換する。
安定な素粒子 ;
光子 photon,電子 electron,電子ニュートリノ electro-neutorino,
陽子 proton は安定に存在する。中性子は単独では平均寿命が約 15 分で
β崩壊するが、核内においては 安定に存在できる。
準安定な素粒子 ;
μ 粒子,μニュートリノ,τ粒子,τニュートリノ,Δ粒子,Λ粒子,Σ粒子,
Ξ粒子,Ω粒子,π中間子,η中間子,ρ中間子,K中間子,D中間子,B中間子
などは、崩壊の平均寿命が 10 〜 10−19 s 程度である。
不安定な素粒子 ;
高エネルギーの素粒子の散乱過程において、その反応の中間状態に極めて短い
平均寿命(10−22 〜 10−24 s 程度)の素粒子が現われることがある。
これを素粒子の共鳴状態といい、極めて不安定な素粒子であって多くの種類の
ものが観測されている。
(注) 最近の理論によると、陽子にも寿命 があり 1032 年 程度で崩壊すると
考えられている。
素粒子の分類 ;
素粒子は、質量や崩壊寿命の他に以下で述べるような量子数によって分類される。
素粒子を特徴づける量子数には、電荷 Q,重粒子数 B,軽粒子数 L,スピン J,
パリテイ P,アイソスピン I とその第3成分 I3 ,ストレンジネス S または
ハイパーチャージ Y などがある。一般に量子数は素粒子のもつ数学的な対称性
に起因している。これらの量子数の間には次のような関係がある。
Q = I3 +(Y/2) ただし Y = S+B
[例] 陽子 p の量子数
Q = 1, B = 1, L = 0, J = 1/2, P = +, I = 1/2,
I3 = 1/2, S = 0, Y = 1
スピンによる分類 ;
素粒子はスピン J が整数値をもつものと半奇数値をもつものとに大きく分けられる。
Fermi(フェルミ)粒子: スピン J = (半奇数値)
Bose(ボース)粒子: スピン J = (整数値)
Fermi粒子は同一のエネルギー準位に1個の粒子しか入り得ないが、Bose粒子は
同一の状態に複数個の粒子が存在できる。
[例] Fermi粒子: 陽子,中性子,電子,電子ニュートリノ 等.
Bose粒子: 光子,π中間子,K中間子,η中間子 等.
(注) フェルミ粒子のことをフェルミオン(fermion)、ボース粒子のことを
ボソン(boson)とも言う。
粒子数や質量による分類 ;
素粒子は その粒子数や質量により次のように分類される。
光子 photon: 重粒子数 B と軽粒子数 L がともに 0 であって、
質量をもたないスピン 1 のBose粒子.
レプトン lepton: 重粒子数 B が 0 の値をもつFermi粒子.
質量は約 0〜1.8 GeV で、スピンは 1/2 .
バリオン baryon: 軽粒子数 L が 0 の値をもつFermi粒子.
質量は約 1 GeV 以上で、スピンは 1/2 .
中間子 meson: 重粒子数 B と軽粒子数 L がともに 0であって、
質量は約 0.13 GeV 以上のボース粒子.
スピンは 0 である.
[例] レプトン: 電子,電子ニュートリノ,μ粒子,μニュートリノ 等.
バリオン: 陽子,中性子,Δ粒子,Λ粒子,Σ粒子,Ξ粒子,Ω粒子 等.
中間子: π中間子,K中間子,D中間子,B中間子 等.
(注) レプトンは軽粒子、バリオンは重粒子の意味である。
バリオンと中間子を総称してハドロン hadron (強粒子の意味)という。
(注) 質量の最も大きなバリオンの例は Λb0 粒子で、約 5.6 GeV の値を持つ。
質量の最も大きな中間子の例はΥ粒子で、約 11 GeV の値を持つ。
反粒子 anti-particle ;
すべて素粒子は、一つの粒子に対して一つの反粒子が存在する。反粒子は、
スピン J とアイソスピン I については粒子と同じであるが、電荷 Q,重粒子数 B,
軽粒子数 L,アイソスピンの第3成分 I3 ,ストレンジネス S,
ハイパーチャージ Y に関してはすべて逆符号となる。
反粒子のパリテイ P については、ボース粒子の場合には同符号であるが、
フェルミ粒子では逆符号となる。
[例] 陽子の反粒子である反陽子の量子数
Q = −1, B = −1, L = 0,J = 1/2, P = −, I = 1/2,
I3 = −1/2, S = 0, Y = −1
(注) 粒子と反粒子が全く同一となるような素粒子もある。
例としては 光子,π0中間子,η中間子 など.
(注) 経験的に知られている多くの物質はすべて粒子から構成されており、
反粒子から成る物質は現在のところ発見されていない。
対消滅 pair annihilation ;
粒子と反粒子が衝突すると、それらはすべて消滅して他の素粒子になる現象の
ことをいう。例としては約 1 MeV のエネルギーをもつ電子と陽電子が衝突
すると、対消滅し2個の光子(γ線)になる。すなわち e−+e+ → γ+γ
対生成 pair creation ;
素粒子反応において、粒子と反粒子が対になって生ずる現象のとをいう。
質量 m の粒子と反粒子が生成されるためには 2mc2 以上の反応エネルギーが
必要である。(ただし c は真空中の光速度)
一例としては γ → e−+e+
電荷 electric charge(Q) ;
素粒子の電荷 Q は陽子の電気量 1.60217733×10−19 C を単位として
測った素粒子の電気量であって、観測される素粒子では +1,0 ,−1 である。
あらゆる素粒子反応において電荷 Q は保存される。すなわち反応前と反応後に
ついて電荷の総和は常に不変である。
重粒子数 baryon number(B) ;
バリオンを表わす量子数の一つで、その値はすべてのバリオンについて 1、
反バリオンについては −1 である。バリオン以外の素粒子については、
すべて 0 である。 素粒子反応過程において重粒子数 B は常に保存される。
(注) ハドロンの構成要素であるクオークは分数電荷(2/3,−1/3 )をもち、
さらに重粒子数についても分数値(1/3)である。
軽粒子数 lepton number(L) ;
レプトンを表わす量子数の一つで、その値はすべてのレプトンについて 1、
反レプトンについては −1 である。素粒子反応過程において軽粒子数 L は
常に保存される。
スピン spin(J) ;
素粒子のスピン J はPlanck(プランク)定数 h/2π を単位として
測った素粒子自身のもつ固有の角運動量であって、現在観測されている多くの
素粒子では、その値は 0, 1/2, 1 である。スピンはベクトル量であり、
そのスピンベクトルの大きさは [J(J+1)]1/2 で与えられる。
パリテイ parity(P) ;
素粒子の状態を表わす波動関数が、空間座標の反転に対して符号を
変えないとき P を +,符号を変えるとき P は − と決める。
(注) 波動関数とは素粒子がある空間領域に存在する確率を規定するもので、
量子力学における基本概念の一つである。
(注) 空間座標の反転とは各座標軸 x,y,z を −x,−y,−z に
する変換のことをいう。この変換は任意の空間点を座標原点に関する鏡像点
に移す変換である。
アイソスピン isospin(I) ;
ハドロンの内部自由度を表わす量子数として導入された。電荷等は異なるが
質量がほぼ等しい粒子類については、同一粒子の異なるアイソスピン状態と
考える。アイソスピン 1/2 をもつハドロンは、アイソスピンの
第3成分 I3 が 1/2 と −1/2 の二つの異なるアイソスピン状態をとる。
アイソスピン 1 をもつハドロンは、アイソスピンの第3成分 I3 が 1,0,−1
の三つの異なるアイソスピン状態をとる。例えば陽子と中性子はアイソスピン
I=1/2 をもつ同一核子が異なるアイソスピン状態をとったもので、
陽子はアイソスピンの第3成分 I3 が +1/2 のときで、中性子は I3 が
−1/2 のときである。またπ中間子は I=1 をもち、π+,π0,π− は I3
がそれぞれ 1,0,−1 のときである。
ストレンジネス strengeness(S) ;
ハドロンを分類し素粒子反応を系統的に記述するために用いられる内部量子数
である。例えば陽子,中性子,π中間子 などは S=0 であるが、Λ粒子や
Σ粒子などは S=−1,K中間子は S=+1 である。
ハイパーチャージ hypercharge(Y) ;
ハドロンの性質を表わす量子数で重粒子数 B とストレンジネス S の
和 B+S である。
物理学 付録2
[素粒子の質量と平均寿命]
|
名称 |
記号 |
質量 (MeV) |
平均寿命 (s) |
|
光子 |
γ |
0 |
|
|
(レプトン) |
|
|
|
|
電子ニュートリノ |
νe |
約 0 |
安定 |
|
電子 |
e |
0.51099907 |
安定 |
|
μニュートリノ |
νμ |
約 0 |
|
|
μ粒子 |
μ |
105.658389 |
2.19703×10-6 |
|
τニュートリノ |
ντ |
約 0 |
|
|
τ粒子 |
τ |
1777.00 |
2.90×10-13 |
|
(重粒子) |
|
|
|
|
陽子 |
p |
938.27231 |
安定 |
|
中性子 |
n |
939.56563 |
887.0 |
|
∧粒子 |
∧ |
1115.684 |
2.632×10-10 |
|
Σ粒子 |
Σ+ |
1189.37 |
0.799×10-10 |
|
|
Σ0 |
1192.55 |
7.4×10-20 |
|
|
Σ- |
1197.436 |
1.479×10-10 |
|
Ξ粒子 |
Ξ0 |
1314.9 |
2.90×10-10 |
|
|
Ξ- |
1321.32 |
1.639×10-10 |
|
Ω粒子 |
Ω- |
1672.45 |
0.822×10-10 |
|
(中間子) |
|
|
|
|
π中間子 |
π+ |
139.56995 |
2.6033×10-8 |
|
|
π0 |
134.9764 |
8.4×10-17 |
|
|
π- |
139.56995 |
2.6033×10-8 |
|
η中間子 |
η |
547.45 |
2.5×10-19 |
|
K中間子 |
K+ |
493.677 |
1.2386×10-8 |
|
|
K0 |
497.672 |
K0S 0.8927×10-10 |
|
|
|
|
K0L 5.17×10-8 |
Ref.
Review of Particle Properties, Particle Data Group,
Berkeley (1996)