[P3]

  

§3.放射性崩壊

放射性崩壊 radioactive decay ; 

 核 X が放射線(α線,β線,γ線 ) を射出して他の核 Y に変換する現象

 のことをいう。このとき核 X を母核、核 Y を娘核という。

 射出する放射線の種類によりα崩壊,β崩壊,γ崩壊 に分類される。

放射線 radiation ; 

 α線,β線,γ線などの総称で、α線はヘリウム核 24He (α粒子)であって、

 β線は電子eや陽電子eから成る。またγ線は短波長の電磁波(光子)

 である。α線(α粒子)のエネルギーは最大でおよそ 9 MeV で、大気中での

 飛程は約 10 cm である。β線の最高エネルギーは 数 MeV 程度で、

 アルミニウム金属中の最大飛程は数 mm 程度である。

 γ線は物質に対する透過力が極めて強い。

(注) 電磁波の波長が 10−8 cm 以下の電磁波をγ線ということが多いが、

    短波長のX線との区別は明確ではない。 

放射能 radioactivity ; 

 放射性核種に関して、放射線を射出する性質のことをいう。

核崩壊の法則 ; 

 母核 X のもつ静止エネルギーが娘核 Y および放射線のもつエネルギーの和

 よりも大きいとき、母核は自発的に崩壊する可能性をもつ。

 膨大な数の放射性核があるとき、時刻 t に存在する崩壊性核の個数を N,

 単位時間あたりに核が崩壊する確率を λ(崩壊定数)とすると、

 微小時間 dt の間に崩壊する核の個数 dN は dN = −λN dt である。

 すなわち  dN/dt = −λN  となる。

 したがって  dN/N = −λ dt

     ∫N−1 dN = −λ∫dt + c (ただし cは積分定数)

      logN = −λt+c

      N = e−λt + c

       = e−λt

       = Ce−λt   (ただし C= e

   そこで初めの時刻 t = 0 のとき N = N0 とすると C = N0 となり、

   よって N = N0−λt である。

放射性核の平均寿命 ; 

 放射性核の平均寿命τは崩壊定数 λ に反比例する。

     τ= 1/λ

半減期 half-life ; 

 放射性核の個数が現在の数の 1/2 に減少するまでの時間 T を半減期といい、

 次式で与えられる。

    T= log2/λ = τlog2

放射能の強さ ; 

 放射能の強さは、単位時間に崩壊する核の個数で表わされる。

 単位は1s(秒)間に崩壊する核の個数が1個のとき1Bq(ベクレル)と決める。

吸収線量 ; 

 放射線が物質に吸収される度合のことをいう。

 単位は、物質の質量1kg 当たりに吸収される放射線のエネルギーが

 1J(ジュール)のとき1Gy(グレイ)と決める。

線量当量 ; 

 放射線の生物学的効果を考慮した量であって、吸収線量と修正係数の積で

 定義される。修正係数は放射線の種類等により異なる。単位は、吸収線量が

 Gy(グレイ)のとき、線量当量はSv(シーベルト)となる。

[例題] 崩壊定数 1.15×10−8 s−1 の放射性核について、初めの時刻

     のときの個数の 1/100 になるまで幾年かかるか。

(解)  N = N0−λt より  t = −λ−1 log(N/N0

    t = −(1.15×10−8 s−1 ) −1 log(1/100)

      = 4.00×108 s

        ここで 1y = 365×24×60×60 s より

            s = 1/(365×24×60×60) y であるから

     = 4.00×108 ×1/(365×24×60×60) y

     =12.7 y

[例題] 半減期 3.05 分の放射性核について、崩壊定数と平均寿命を求めよ。

(解)   T = log2/λ = τlog2  より

    崩壊定数 λ = log2/T

          = 0.693/(3.05×60 s)

          = 3.79×10−3 s−1

    平均寿命τ = T/log2

         =(3.05×60 s)/0.693

         = 264 s

[例題] 半減期 138 day (日) の放射性核について、初めの時刻のときの個数の

     1/1000 になるまで幾年かかるか。

(解)  λ = log2/T

        ( 1y = 365 day より day = 365−1 y )

      = 0.693/(138 day )

      = 0.693/(138×365−1 y )

      = 1.83 y−1

     t= −λ−1 log(N/N0

      = −(1.83 y−1 ) −1 log(1/1000)

      = 3.77 y

崩壊系列 ; 

 放射性崩壊により母核から生じた娘核は、さらに崩壊して他の核種に変換し、

 順次このような変換を続けて最後には非放射性核種に達して安定となる。

 これを崩壊系列(放射性系列)といい、次の4種類の系列がある。

  U-Ra (ウラン-ラジウム)系列: 92238U から始まり 82206Pb に終わる。

  Th(トリウム)系列:     90232Th から始まり 82208Pb に終わる。

  Ac(アクチニウム)系列:    92235U から始まり 82207Pb に終わる。

  Np(ネプツニウム)系列:   93237Np から始まり 83209Bi に終わる。

α崩壊  α decay ; 

 核が α線(α粒子)を放出して、陽子数 Z が2,中性子数 N が2少ない核に

 変換することをいう。核Xがα崩壊 ZAX →  Z−2A−4Y + α を起こす

 ことができるための条件は、次式が成り立つことである。

  △m = M−M−Mα ≧ 0

 ただし M,M,Mα は、それぞれ 母核 X,娘核 Y,α粒子 の質量である。

 このとき E = c2 △m を崩壊エネルギーといい、その大部分は放出

 されるα粒子の運動エネルギー E となる。

 このとき α粒子の飛程 R は次式で与えられる。

   R = CE3/2  (Cは定数)

[例題] α粒子の運動エネルギー E が 9.69 MeV のとき、ある気体中の飛程が

     100 mm であった。E が 4.18 MeV のとき、この気体中での飛程を求めよ。

(解)  R = CE3/2 より 

     100 mm = C(9.69 MeV)3/2 ,   R = C(4.18 MeV)3/2

     したがって

     R = 100 mm ×(4.18MeV/9.69MeV )3/2

      = 28.3 mm

Geiger - Nuttal の法則 ;

 一つの崩壊系列において、α粒子の飛程 R と崩壊定数 λ の間 には次の関係式が

 近似的に成り立つ。

   logλ = A+B logR  

 ただし A,B は各崩壊系列に対して固有の値をとる定数である。

 この式をα粒子の運動エネルギー E と半減期 T の間の関係式に変形すると、

  T = T0d/√E (ただし T0 ,d は定数)

 となる。        

(注) U-Ra 系列については、T0 = 7.996×10−64s ,

    d = 378.7 MeV1/2 である。

β崩壊  β decay ; 

 核がβ線(電子e または 陽電子e)を放出して、質量数 A は等しいが

 陽子数 Z が1だけ異なる核に変換することをいい、次の反応式で示される

 ように、2種類のものがある。

  β崩壊:  ZAX →  Z+1AY + e-ν

  β崩壊:  ZAX →  Z−1AY + e+ ν

 β崩壊では、β線の他に電子ニュートリノνや反電子ニュートリノ -ν

 を放出する。(ニュートリノは中性微子とも呼ばれる.)

 核内の素過程としては、陽子 p と中性子 n が次式のように相互転換するとき

 β崩壊が起こる。

  β崩壊: n → p + e-ν

  β崩壊: p → n + e+ ν

 β崩壊の際に放出される電子等の運動エネルギーは一定でなく、連続的な値

 をとり得る。

(注) 電子ニュートリノνは素粒子の一種で、電気量を持たず、スピンは

    1/2 である。νは他の素粒子とは弱く相互作用するだけで、あらゆる

    物質を貫通する。電子ニュートリノの質量は零とみられていたが、

    現在では極めて小さい質量をもつと考えられている。

(注) α崩壊は核反応の一種であるが、β崩壊は弱い相互作用に起因する

    素粒子反応である。

(注) β崩壊の特徴は放出される電子等の角分布が左右非対称になることである。

    今まで知られている多くの物理現象は左右対称であり、物理学の基本法則は

    左右対称でなければならないと考えられていたが、β崩壊の特徴が明らかに

    なってからはこの左右対称の考え方が改められた。 

軌道電子捕獲 ; 

 核内の陽子 p が核に近い K または L軌道にある軌道電子 eを捕獲して中性子 n に

 転換することによって起こる核種の変換のことをいう。

 このとき次式のように p は電子ニュートリノ νを放出する。

  p + e → n + ν

 または  ZAX + e→ Z−1AY + ν

 軌道電子捕獲はβ崩壊の逆過程である。捕獲後の原子は K または L軌道の

 電子が1個欠けた状態となるために、外部軌道の電子がこの空いた軌道に

 遷移して来るが、この際、特性X線の放射を伴う。

γ崩壊 ; 

 核が高いエネルギー準位の状態から低いエネルギー準位の状態へ遷移する際に

 γ線(光子)を放出することをいう。

 高いエネルギー準位 Eの核が低いエネルギー準位 Eに遷移したとき放出

 されるγ線の光子のエネルギー E は次式で与えられる。

   E = E− E

 一般にα崩壊やβ崩壊で生成された核は励起状態(高いエネルギー準位)

 にあり、それがさらにγ線を放出して安定な基底状態(最低エネルギー準位)

 に移行することが多い。

(注) 量子論によると、一般に粒子は波動的性質をもつことが知られている。

    粒子の運動量やエネルギーは、その粒子の波動的性質を表わすところの

    波長や振動数に密接に関係している。光子の場合、そのエネルギー E と

    光波の振動数 ν の間には 

     E = hν

    の関係がある。ただし h は Planck (プランク)定数と呼ばれる基本定数

    で h≒ 6.626×10−34 J・s である。

    電子の場合は、その運動量 p とすると電子波の波長 λ の間には

     p = h/λ 

    の関係がある。

(注) γ崩壊のとき放射されるγ線(光子)の振動数 ν は次式で与えられる。

     ν=(E−E)/h

(注) 光波の波長 λ は λ = c/ν ( c は真空中の光速度) である。

(注) 量子論は、素粒子や原子などの性質を論ずる際に必要となる理論で、

    歴史的には1900年にM. Planck により提唱されたエネルギー量子説に

    始まる。その後、de Broglie,E. Schreodinger,M. Born,

    W. Heizenberg,W. Pauli,P. A. M. Dirac 達 多くの研究者によって

    発展させられた。量子論は相対論と並んで現代物理学の基礎理論である。

[例題] 励起状態の核がγ崩壊により、エネルギー 1.08 MeV のγ線を放出

     したとき、このγ線の波長を求めよ。ただし真空中の光速度を

     3.00×108 m・s−1 とし、Planck 定数を 6.626×10−34 J・s

     とする。また eV = 1.6×10−19 J とする。

(解)   E−E= 1.08 MeV

         = 1.08×106 eV

         = 1.08×106×1.6×10−19 J

         = 1.73×10−13 J

     ν =(E−E)/h

      = 1.73×10−13 J /(6.626×10−34 J・s )

      = 0.261×1021 s−1        

     λ = c/ν

      = 3.00×108 m・s−1/(0.261×1021 s−1

      = 11.5×10−13 m

      = 1.15×10−10 cm

 

§4.X線

X線 X-ray ;

 X線は波長が 10−9 〜 10−6 cm 程度の電磁波(光子)である。

 波長が短いほど物質に対する透過性が強くなり、短波長側はγ線に移行する。

 また長波長側では紫外線に移行する。

X線管 X-ray tube ;

 X線を発生させる真空管のことをいう。真空にしたガラス管内に陰極と

 陽極ターゲットが封入されており、これに高電圧を印加して使用する。

 ターゲット物質は重金属(タングステン,鉄,銅など)で作られている。

 一般に真空中において電子を高電圧(10 〜100 kV)で 加速して

 ターゲットに衝突させるとX線が放射される。

 X線管に印加される電圧を [V],電流をi [A],ターゲット金属の

 原子番号 Z とすると、単位時間あたりに放射されるX線の全エネルギー

 P [W] は 

        P = ηZi2  

 で与えられる。ただし η は定数で SI単位系では 10−9 V−1 となる。

[例題] X線管に印加する電圧と管電流が定められているとき、ターゲットの

     金属を銅からタングステンに変更すると放射されるX線のエネルギーは

     幾倍となるか。ただし銅 Cu,タングステン W の原子番号を それぞれ

     29,74 とする。

(解)   P = ηZi2 より 

     PCu = 29ηi2 ,   PW = 74ηi2

     よって PW /PCu = 74/29 = 2.55 倍  

[例題] X線管のターゲット金属や管電流が定められているとき、X線の

     放射エネルギーを2倍にするためには管電圧を幾倍にすればよいか。   

(解)  P = ηZi2 より 

     P = ηZi12 ,   2P = ηZi22

     したがって

     2P/2 = P/12

     2 = √2 1

     よって √2 倍

連続X線 ;

 陽極ターゲットの物質に関係なく連続スペクトルをもつX線のことをいう。

 高速な電子がターゲットに衝突する際に、電子の制動放射によって生ずる。

(注) 制動放射とは電子が減速される際に、電子のもつ運動エネルギーの一部が

    電磁波(X線など)のエネルギーに変換されて放射されることをいう。

特性X線 

 陽極ターゲットの物質に固有の線スペクトルをもつX線のことをいう。

 電子が高速でターゲットに衝突したときに、ターゲット物質の原子が励起

 されることにより生ずる。

(注) 透過性の強いX線(短波長)を硬X線、透過性の弱いX線(長波長)を

    軟X線と言うことがある。

X線の散乱 

 X線は電子等の荷電粒子に当たると散乱される。

 X線の散乱にはThomson(トムソン)散乱とCompton(コンプトン)散乱

 がある。Thomson 散乱は電子が入射X線(電磁波)を受けて振動を起こす

 ことにより生ずる。Thomson 散乱では散乱X線の波長は入射X線の波長に

 等しい。Compton 散乱は入射X線(光子)が電子と衝突する際、光子のもつ

 運動量とエネルギーの一部を電子に与えることにより生ずる。

 Compton 散乱では散乱X線の波長は入射X線の波長と異なっている。

X線の吸収 

 X線が物質中を通過するとき、物質に吸収されてX線強度は指数関数的に

 減衰していく。初め強度 I0 のX線が、厚さ x の一様な物質中を通過すると、

 その強度 I は 

     I=I0−μx 

 となる。ここで μ を線吸収係数といい、入射X線の波長で決まる定数である。

 単体物質においては、その物質の密度 ρ としたとき μ/ρ のことを

 質量吸収係数という。質量吸収係数は物質の凝集状態によらない定数となる。

[例題] 定められた強度のX線を均一な物質中に入射させたとき、表面より

     深さ 30.0 mm の点での強度が表面の 1/2 になった。

     このとき表面の強度の 1/10 になるような深さを求めよ。   

(解)   I=I0−μx より

     I/(2I) =e−30.0μ ,   I/(10I) =e−xμ 

     したがって 

     μ = (loge2)/(30.0 mm) 

     x = (loge10)/μ

     よって 

     x = 30.0mm×(loge10)/(loge2)

       = 99.7 mm

 

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