[P2]
§2.原子核の性質
原子核の大きさは およそ 10−12 cm(原子の大きさの 1/104 程度),
密度はおよそ 1014 g・cm−3 (比重 1014) という高密度である。
多くの核は、ほぼ球形とみなせる。核の半径 R は近似的に次式で与えられる。
R = rA1/3 (ただし r = 1.3×10−13 cm )
ただし A は核の質量数である。
(注) この近似式は軽い核については成り立たない。
[例題] パラジウム核 46106Pd の半径は幾 cm か。
(解) R = rA1/3 より R = 1.3×10−13×(106)1/3 cm
≒ 6.2×10−13 cm
核の結合エネルギー binding energy ;
原子核 ZAX を Z 個の陽子と N 個の中性子に完全に分解するのに要する仕事は、
核が構成されるときに放出されるエネルギーに等しい。核を作るとき放出される
エネルギーを核の結合エネルギー という。これが正で大きい程、核は安定である。
質量欠損 mass defect ;
一般に核 ZAX の質量 mX は、これを構成する Z 個の陽子(質量mp)と
N 個の中性子(質量mn)の質量の総和 Zmp+Nmn よりは小さく、
その質量差のことを質量欠損 △m といい、次式によって与えられる。
△m = Zmp+Nmn−mX
[例題] 炭素核 612C の質量を 19.92636×10−24 g とするとき、
この核の質量欠損は陽子質量の幾 % に相当するか。
ただし 陽子,中性子の質量をそれぞれ 1.67262×10−24 g ,
1.67493×10−24 g とする。
(解) △m = Zmp+Nmn−mX
= 6×1.67262×10−24g+6×1.67493×10−24g−19.92636×10−24g
= 0.1589×10−24g
よって [ 0.1589×10−24 g /(1.67262×10−24g)]×100 = 9.5 %
核の結合エネルギー B と質量欠損 △m の 間には次の関係がある。
B = c2 △m = c2(Zmp+Nmn−mX )
ただし c は真空中の光速度であって、およそ 3.0×108 m・s−1 である。
(注)相対性理論によると、質量 m の物体が速度 v で運動しているとき、
この物体のエネルギー E は
E = mc2 [1−(v/c) 2 ] −1/2
で与えられる。
この式より物体が静止(v=0)しているときのエネルギー E0 は
E0 = mc2
となり、質量とエネルギーの等価性が示される。この E0 を静止エネルギー
という。
したがって物体のもつ運動エネルギーKは
K= E−E0
= mc2[1−(v/c)2 ] −1/2 −mc2
となる。
(注) エネルギーの SI 単位 J(ジュール)= kg・m2・s−2
エネルギー 1eV(エレクトロンボルト)は、電子が 1V(ボルト)の電圧で加速
されたときに得るエネルギーである。
(注) エネルギーの単位 eV と J(ジュール)の関係
電子の電気量の絶対値の大きさは およそ 1.6×10−19 C(クーロン)であるから、
(電子の得るエネルギー) = (電荷)×(電圧) より
1eV ≒ 1.6×10−19 J (ジュール)
となる。
(注) 103 eV = 1 keV
106 eV = 103 keV = 1 MeV
109 eV = 103 MeV= 1 GeV
( k: キロ, M: メガ, G: ギガ )
(注) 原子核や素粒子の分野では、質量の大きさを表わすとき、eV,MeV,GeV などの
エネルギーの単位を用いることが多い。
[例題] 質量 0.05 mg をエネルギーの単位 GeV で表わせ。
ただし 真空中の光速度 3.0×108 m・s−1,電子の電気量の絶対値を
1.6×10−19 C とする。
(解) E = mc2
= 0.05×10 −6 kg ×(3.0×108 m・s−1 ) 2
= 0.45×109 kg・m2・s−2
= 0.45×109 J
1 eV = 1.6×10−19 J より
J = 1/(1.6×10−19 ) eV であるから
E = 0.45×109×1/(1.6×10−19 ) eV
= 0.28×1028 eV
= 0.28×1028×10−9 GeV
= 2.8×1018 GeV
[例題] 静止していた電子を電圧 20 kV でもって加速したとき、この電子の得る
速度を求めよ。ただし電子の静止質量を 0.51 MeV とし、真空中の
光速度を 3.0×108 m・s−1 とする。
(解) K = E−E0
= E0[1−(v/c)2 ] −1/2 − E0 より
20×103 eV = 0.51×106 eV ×[1−(v/3.0×108 m・s−1 ) 2 ] −1/2 − 0.51×106 eV
よって v = 8.16×107 m・s−1
[例題] 酸素原子核 816O の質量を 26.56005×10−27 kg とするとき、
この核の結合エネルギーは幾 MeV か。ただし 陽子,中性子の質量を
それぞれ 1.67262×10−27 kg,1.67493×10−27 kg とする。
また 真空中の光速度を 3.0×108 m・s−1 とし、eV =1.6×10−19J とする。
(解) B = (Zmp+Nmn−mX)c2 より
B = (8×1.67262×10−27 kg+8×1.67493×10−27 kg−26.56005×10−27 kg )
×(3.0×108 m・s−1 ) 2
= 1.98315×10−11 kg・m2・s−2
= 1.98315×10−11 J
= 1.98315×10−11/(1.6×10−19 ) eV
= 1.24×108 eV
= 1.24×108×10−6 MeV
= 124 MeV
核の結合の強さ ;
核子1個あたりの結合エネルギー b=B/A は、その核の結合の強さ
すなわち核の安定度を示す尺度である。軽い核(質量数A<20)のとき
b は約 3〜8 MeV であり、A が 4 の倍数であると特に大きくなる。
これは24H核(α粒子)が特に大きな結合エネルギーを持って安定であるから、
軽い核内においては2個の陽子と2個の中性子がα粒子的な集団を作り易いこと
を意味する。質量数 20≦A≦190 の核では、b は およそ 8 MeV の値を
持つが、A>190 のような重い核の b は 7 MeV 程度に減少する。
したがってAが中程度の値のとき b が最も大きくなり、核は安定となる。
安定核の分布 ;
天然に存在する 287 種類の安定核を、陽子数 Z や中性子数 N が偶数か奇数か
に応じて分類したとき、核の存在数は Z,N とも偶数の場合が最も多く Z,N が
ともに奇数の場合が最も少ない。このことは陽子数と中性子数がともに偶数のとき、
核は最も安定であることを示す。
中性子過剰 ;
軽い安定核では陽子数 Z と中性子数 N は ほぼ等しいが、重い核になるにつれて、
中性子数 N が陽子数 Z より大きくなる。
これを中性子過剰neutron excessといい、過剰中性子数 D=N−Z に対し
次の経験式が成り立つ。
D = N−Z ≒ 0.006 A5/3
(注) 重い核では中性子過剰のとき核が安定である理由;
正電気を持つ陽子間には静電気による反発力が作用するために陽子数Zが
大きいと核力による結合が弱められて核が不安定となる。ところが電気を
もたない中性子が多いと核力の寄与が強くなるので、重い核では中性子過剰
のとき核は安定となる。
[例題] 質量数 195 の白金の核について、過剰中性子数を求めよ。
(解) D = N−Z ≒ 0.006A5/3 より
D = 0.006×(195)5/3 ≒ 39