死の判定
1
個体死
2
脳死
3
死亡時刻
4
異状死体
1 個体死
肺、心臓、脳のうちいずれか1つの永久的(不可逆的)機能停止が個体の死
1)個体死の定義
人工臓器、あるいは臓器移植の導入で、肺、心臓は代用臓器で機能を補えるため、合理的でなくなった。全脳の不可逆的機能停止のみが個体の死である。
2脳死
1) 定義
脳死とは、全脳の不可逆的機能喪失の状態である。
一般的に、心停止から約3〜4分で大脳皮質の障害、約7分で脳幹(間脳、中脳、橋、延髄)の機能障害を生じる。
2) 脳死と植物状態との違い
脳死は全脳の不可逆的機能停止であり、植物状態は大脳の機能障害のみ
植物状態とは、臨床的に
(1)意志疎通、自力移動、発語、視覚認識、食事自己摂取の不能
(2)糞尿失禁が3カ月以上
3) 判定基準
脳死判定基準
(1991) (時間的経過は削除された)
(1)
深昏睡
(2)
瞳孔の固定
(3)
脳幹反射の消失
(4)
平坦脳波
(5)
自発呼吸の消失
3 死亡時刻
1)定義
脳死を個体死とするならば、自発呼吸が不可逆的機能停止をした最初の時を死亡時刻とするべきである。
2)脳死の死亡時刻
仮に判定基準のすべての項目が満たされた時点を『死亡時刻1』とし、6時間経過した時点で判定した時点を『死亡時刻2』とするといくつもの死亡時刻が存在してしまう。
死亡時刻2は単に経過を観察し終えた時点と解釈して、死亡時刻1を死亡時刻と認定するのが妥当である。
4異状死体
1) 定義
医師、歯科医師に診療を受けていた患者が診断されていた疾病で死亡した場合以外のすべての死
2) 異状死体の分類
(1)犯罪に起因した死体
(2)犯罪とは無関係の死体
(3)犯罪との関わりが不明な死体(変死体)
3) 検視と検案
異状死体を司法警察員、検察官がみることを検視といい、死体の死因等を医学的知識に基づき医師が行うことを検案という。
4) 死亡診断書と死体検案書
死亡診断書は診療中(または最後の診療後24時間以内)の患者がその疾病で死亡した場合発行される。(歯科医師法施行規則第19条、医師法施行令第20条)
死体検案書は死者を生前診療したことのない医師が、その死体をはじめて検案して作製する場合に発行するものである。(医師法施行令第20条)
5) 解剖
解剖は系統解剖・病理解剖・法医解剖に分けられ、
法医解剖には司法解剖・行政解剖・承諾解剖がある
1)司法解剖:犯罪の疑いがある場合 (刑事訴訟法第129、168条)
検察官、司法警察員が学識経験者に嘱託→鑑定嘱託書を発行。
裁判官による鑑定処分許可状が必要。
遺族の承諾は不要 (死体解剖保存法第7条)。
2)行政解剖:犯罪と無関係で死因が不明確
監察医による解剖 (死体解剖保存法第8条)
監察医制度:都道府県知事が開設。
監 察 医:医学部法医学所属の医師が非常勤で勤務していることが多い。
監察医制度がある地域: (東京都区:監察医務院、大阪市・名古屋市・横浜市・神戸市:監察医事務所)
遺族の承諾は不要 (死体解剖保存法第7条)。
3)承諾解剖:監察医制度がない地域で行われている。
遺族の承諾が必要 (死体解剖保存法第7条)。
学識経験者が行う。
解剖で異状 (犯罪との関連) が発覚すれば司法解剖に変わる (死体解剖保存法第11条)。
監察医制度
死体解剖保存法第8条に基づき、届け出された異状死体の検案、解剖を監察医がおこなう制度をいう。
1)施行地域
東京都23区内、横浜、名古屋、大阪、神戸
2)監察医
都府県知事が任命する。法医学者、一部病理学者
3)監察業務
異状死体の届出のあった所轄警察署長の要請により、行政検視の一環として死体検案をおこない、死体検案書を交付する。死体検案のみで死因などの医学的判断が不十分な場合には解剖をおこなう。
死体現象
1意義
2生活反応
3早期死体現象
4後期(晩期)死体現象
5異常死体現象(永久死体)
6死後経過時間の推定
7歯の死体現象
1意義
1) 死後経過時間の推定
2) 死因や死亡の種類の判断に役立つ
2生活反応
外部から作用した異常刺激に対する生体の病態生理的変化が死後も死体に形態的変化として認識されるものを生活反応という。
1) 局所的生活反応
(1)皮下出血
死斑との区別:組織に膠着し除去が困難、光沢を欠く、死斑は組織を染着するだけ
(2)創口の哆開
(3)痂皮の形成
(4)熱傷
第一度 紅斑性熱傷
第二度 水疱性熱傷
(第三度
壊死性熱傷)
2) 全身的生活反応
(1)
循環系
貧血
栓塞(せんそく) 脂肪、空気 100〜150ml致死的
(2)呼吸系
すすの気道内吸引、COヘモグロビン(焼死体と死体焼却の鑑別)
プランクトンの証明(溺死と水中死体の鑑別)
3早期死体現象(p121)
1) 死体の冷却・体温降下
死亡〜10時間
1℃/時
10時間〜
0.5℃/時
2) 死体の乾燥
角膜 12時間〜
微濁
1日半〜2日 白濁
3) 血液凝固と線溶現象
循環している血液
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凝固系因子
線溶系因子
循環停止による因子の自然活性化
死戦期における諸細胞からの活性化物質による因子の活性化
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血液の凝固
流動性血液
4) 死斑・血液就下
死後血液循環が停止すると、血管内の血液は重力に従い身体下面の毛細血管に沈下、集合する。この現象を血液就下といい、これが外表から認められるようになったものを死斑という。
死後30分で出現
〜10時間
指圧で消失
〜15時間 最高(これ以降消失しなくなる)
5) 死体硬直(死後硬直)
死亡直後、全身の筋肉の緊張はなくなり弛緩状態となるが時間の経過とともに、筋肉は次第に硬くなり硬直してくる。これを死体硬直という。硬直した筋肉は一定時間後、自然に緩解してくる。これを硬直の緩解という。
顎
2〜3時間
全身
6〜7時間
最高
15〜20時間
緩解開始
2日前後
緩解完了
3〜4日
4後期(晩期)死体現象
1) 自家融解
赤血球の溶血による血管壁や周囲組織へのヘモグロビンの染着
2) 腐敗
下腹部腐敗変色
24時間
腐敗網・水疱
2〜3日
3) 死体の損壊
地上に放置された死体や水中死体では、種々の動物による損壊や物理的損壊(スクリュー創など)によって死体の崩壊が促進される。
4) 白骨化
地上
数カ月〜1年
土中
3〜5年
5異常死体現象(永久死体)
特殊な条件下にある死体は普通の死体にみられる腐敗や崩壊が起こらず、かなり原形を保ち半永久的にその形態を残すことがある。
1) ミイラ化
約3カ月
2) 死ろう化
死体が水中や湿った土中で、空気の流通が悪い状態にあると、死体内の脂肪が変化し、灰白色〜黄褐色調で、硬さは軟らかいチーズ様から石膏様に硬化したものである。これを死ろうという。
死ろうの成因は、常温で液状の不飽和脂肪酸(主としてオレイン酸)がバクテリアの酵素により、炭素数9.10位の二重結合のところに水が添加されて融点の高い10-ハイドロキシ脂肪酸が合成され、つづいて脱水素されてさらに融点の高い10-オキソ脂肪酸が生成されて安定した死ろうが形成される。
水中 開始
1〜2カ月
完了
2〜4カ月
土中
約1年
6死後経過時間の推定
1)死体現象からの推定
2)胃腸内容からの推定
米、野菜、果物
食後2〜3時間
肉類
食後4〜5時間
3)膀胱内の尿量からの推定
尿は通常、1ml/分で貯留し、300mlで尿意を感じる
4)摂取アルコールの濃度変化
尿/血液(エタノール濃度比)
飲酒後
1時間以内 1.0以下
1時間以上
1.0〜1.3
かなりの時間 1.3以上
7歯の死体現象
1) ピンク歯(p227)
水中や土中など、死体が湿潤な環境に置かれた場合や、絞頸や扼頸などの致死的頸部圧迫、頭部に極度のうっ血を起こさせるような外力が死亡時に加わった場合出現することがある。
(1)成因
@ 歯髄腔内お血管の破綻による血色素の浸潤
A 細菌の産生する色素の浸潤
2) 現象から推定できるもの
(1)年齢
形態学的、ラセミ化の応用
(2)血液型
解離試験、DNA分析
(3)性別
DNA分析
(4)職業、生活環境
治療内容(自費治療の有無)
死後経過時間、死因(中毒を含む)の推定は不可能
死因論
1 外因死
外因性因子が作用することによる死亡
1) 窒息
2) 損傷
3) 異常温度による外因死
(1)熱傷死
(2)焼死
(3)凍死
4) その他の外因死
(1)感電死
(2)落雷死
(3)被虐待児症候群
2 内因死
内因性疾患による死亡、病死
1) 心疾患
虚血性心疾患
2) 脳血管系障害
くも膜下出血
3) その他の原因疾患 大動脈系、肺循環系、呼吸器系、消化器系疾患
4) 原因不明な内因性疾患
*SIDS (sudden infant death syndrome)
多くは生後1ヶ月〜4ヶ月頃、まったく症状が無いか、あってもせいぜい軽いカゼ程度の乳幼児が睡眠中死亡し、解剖によっても死因の説明がつかない急死群 性差はない
欧米
1000人
1〜3人
日本(東京) 1000人 0.25人(1989)
0.33人(1990)
3 中毒
中毒とは、毒物が原因となり生体の機能が障害されることをいい、その障害の結果死亡する場合が中毒死である。
毒物とは、生体に摂取された場合、化学的作用により健康を害しあるいは死に至らせる物質である。
1-1)
窒息
(1)
定義
呼吸機構の障害によって動脈血ガスの異常をきたし、そのために生体が正常な活動を維持できなくなった状態をいう。
(2)
窒息と呼吸不全
換気障害
↓
肺胞低換気(酸素分圧↓、炭酸ガス分圧↑)
↓
血液がアシドーシスとなる
↓
pH↓、血清電解質↑、血清蛋白↑、血清酵素↑、血中ホルモン↑
↓
高度意識障害、臓器や組織の重大な機能障害
↓
窒息死
(3)
窒息死体の所見
@ 外表所見
(ア)顔面のうっ血、チアノーゼと腫脹
(イ)顔面部の皮膚・眼瞼・眼球結膜下の溢血点
(ウ)窒息手段の痕跡(頸部における縊死,絞死の索状痕,扼死の手指圧迫痕)
(エ)死斑の著明な発現(血液が多くの場合暗赤色流動性のため)
(オ)尿・大便の失禁
A 内部所見
(ア)暗赤色流動性血液
(イ)粘膜・しょう膜下の溢血点の発現(胸膜、、咽喉頭粘膜、口腔粘膜など)
(ウ)臓器のうっ血(肺、肝、腎など)
以上を窒息死体の三徴候(急死のtrias)という
(エ)頸部諸軟骨の骨折
(4)
手段ないし原因による分類
@ 鼻口部圧迫・閉鎖による窒息
新生児、乳幼児に多く見られ、過失あるいは他殺
SIDSとの鑑別が重要
A 気道内異物吸引
幼児、老人に多く見られ、偶発的か過失
B 致死的頚部圧迫
自殺、他殺の鑑別が重要
(ア)縊頸(縊死)
頸部に索状物を掛け、一端を他の物体に固定し自分の体重で頸部を圧迫し死に至る。
*定型的縊頸;前頸部に索状物が掛かり、後正中線上で左右対称的に開放あるいは結節のある吊り方で、かつ足が地面・床から離れている吊り方およびそれによる死。
(左右の頸動脈も椎骨動脈も血行が閉ざされるため索条体から上方は鬱血せず、溢血点も発現しない。)
*非定型的縊頸;それ以外、首吊りの2/3はこの型である。
縊頸はほとんどが自殺
(イ)絞頸(絞死)
索状物を頸部に巻き、頸部を体重以外の力で圧迫し、死に至る。
絞頸はほとんどが他殺
(ウ)扼頸(扼死)
頸部を手あるいは腕で圧迫し、死に至る。
扼頸はほとんどが他殺
〈死体所見〉
索状痕、扼痕の存在
顔面のうっ血(定型的縊頸ではないか弱い)急死の三徴候
頸部諸軟骨の骨折
(5)
気道内液体吸引(溺死)
水その他の液体ないし液状物が主として末梢気道系(細気管支、肺胞)に吸引され生じる。
〈死体所見〉
•
死斑は軽度(体位の変化のため)
•
鼻口部の細小泡沫群
•
漂母皮形成(washer woman's skin)
•
巨人様化
*溺死の証明(水中死体との鑑別)
肺、腎、肝などにプランクトンの証明(壊機法)
溺水中のプランクトンを指標に、循環血液中への溺水の侵入を証明する方法。
肺や胃内へは死後の溺水侵入は可能であるが、肝、腎、骨髄などへは循環血液を介さない侵入は不可能。
(1)大気(吸気)中酸素欠乏
(6) 胸腹部圧迫による窒息死
1-2)
損傷
(1)定義
損傷とは、組織の正常な連絡が断たれた状態をいう
創、開放性 傷、非開放性
(2)損傷の検査
創角(端) 創口 創縁 創洞 創面 創底
(3)損傷と死因
@重要臓器の直接障害
脳、肺、心臓、肝臓や腎臓では受傷後の失血が死因となる。
A圧迫による臓器機能障害
心臓タンポナーデ、硬膜外・下出血など
B失血
全身の血液総量の約半分を失えば死亡、新生児は弱く、女性は男性に比べ強い、また、出血の速度が早いほど重篤
C窒息
Dショック
外力の侵襲などにより生じる、生体機能の広汎な乱れを総称する症候群。
発生機転;末梢組織への有効な血液量が減少、そのため臓器、組織の生理機能が障害される。
(4)成傷物体による分類
@鋭器損傷
(ア)切創
有刃器の刃や類似物の鋭利な辺縁を人体表面にあて、刃の長軸方向に引くあるいは押してできた創をいう
(イ)割創
日本刀、オノのような重量のある刃器でたたき切る作用によりできた創をいう
(ウ)刺創
細長い物体で長軸方向に突き刺されて形成される創をいう
A鈍器損傷
表面が鈍な部分を有する物体の全てを鈍器または鈍体といい、これによる損傷。
(ア)
圧迫痕
(イ)
表皮剥脱
(ウ)
皮下出血
*特殊な形状の皮下出血
眼鏡血腫 頭蓋底骨折で生じる。
二重条痕 棒状の鈍器、打撃点直下の血管圧迫により内部血液が周囲へ押し出されてできる。
タイヤマーク 車輪でできる。
(エ)
挫創
鈍体により皮膚と皮下組織が挫滅することでできた創。頭のように皮膚の直下に骨がある部位に多発する。
(オ)
裂創
(カ)
デコルマン
皮膚の表面が伸展、下層の筋膜面と皮下組織がはがれ断裂した状態。
(キ)
咬傷
歯の配列状態
歯の幅径(歯の長径はわからない)
歯の欠損
<検査方法>
写真撮影
描写(トレース)
印象採得および模型作製
唾液斑の採取(DNA鑑定の可能性)
B銃器損傷
銃器から発射される銃弾による損傷で、銃創あるいは射創といわれる。
接射;爆発したガスにより皮膚が破裂し、創口は不整形になる。
近射;ピストルで 15p
火傷、煤輪
30−40p 火薬粒
遠射;ピストルなら50p、ライフルなら1m以上