nucleus3.htm


[P3]



素粒子 particle



素粒子は、あらゆる物質や力の根源的構成要素であるところの最小単位の
粒子であり、その大きさは 10−13 cm 以下のスケールである。
素粒子の衝突散乱過程についての近似計算などでは、素粒子は拡がりをもたない
点状の粒子として取り扱われる。
素粒子を理論的に研究するためには特殊相対性理論量子論の詳細な知識が
前提となるが、本稿ではそれら予備知識を前提とせずに定性的な概説にとどめる。
素粒子物理学は高エネルギー物理学の一部門であり、素粒子現象に関する知見を
得るためには、極めて高いエネルギー領域での研究が必要となる。
高エネルギー領域の加速器実験などにおいては、多種類の素粒子が出現する。
現在では 数百種類の素粒子が知られているが、その大部分は不安定であり、
他の安定な素粒子に崩壊転換する。
安定な素粒子には、光子 photon ( γ ), 電子 electron ( e ),
ニュートリノ neutrino ( ν ), 陽子 proton ( p ) などがある。
中性子 neutron ( n ) は、単独では平均寿命が 約 15 分で β 崩壊するが、
核内においては安定に存在する。
最近の理論によると、陽子 p にも寿命 があり 1032 年 程度で
崩壊すると考えられている。

素粒子は、以下で述べるような量子数によって分類される。
素粒子を特徴づける量子数には、
電荷 , 重粒子数 , 軽粒子数 , スピン
などがある。
一般に量子数は素粒子のもつ数学的な対称性に起因している。

電荷 electric charge (
素粒子の電荷 は陽子の電気量 1.602176462×10−19 C を単位
として測った素粒子の電気量であって、
  +1, 0 , −1 
の値のいずれかをもつ。
あらゆる素粒子反応において電荷 は保存される。
すなわち反応前と反応後について電荷の総和は常に不変である。
したがって電荷の保存しないような素粒子反応は禁止される。
電荷が 0 でない素粒子 すなわち電荷 (+1,−1) をもった素粒子は、
直接的に観測され得る。

重粒子数 baryon number (
重粒子 baryon を表わす量子数の一つで、その値は
すべての重粒子について 1 である。
重粒子 以外の素粒子については、すべて 0 である。
素粒子反応過程において重粒子数 は常に保存される。
したがって重粒子数が保存しないような素粒子反応は禁止される。
重粒子の質量は、概して平均的に大きい。
後述するように、陽子や中性子は重粒子に属する。

軽粒子数 lepton number (
軽粒子 lepton を表わす量子数の一つで、その値は
すべての軽粒子について 1 である。
素粒子反応過程において軽粒子数 は常に保存される。
したがって軽粒子数が保存しないような素粒子反応は禁止される。
軽粒子の質量は、概して平均的に小さい。
後述するように、電子やニュートリノ は 軽粒子に属する。

スピン spin (
素粒子のスピン  は  /2π を単位として測った素粒子自身のもつ固有の角運動量であって、
現在観測されている多くの素粒子では、その値は
  0, 1/2, 1 
をもつ。
ここで は Planck (プランク) 定数と呼ばれる基本定数であって、
   = 6.62606876×10−34 J・s
である。

[素粒子のもつ量子数の例]
 素粒子の種類 電荷  重粒子数  軽粒子数  スピン  
 陽子 ( p )  1   1   0  1/2 
 中性子 ( n )  0   1   0  1/2 
 π 中間子 ( π )  1   0   0  0 
 π 中間子 ( π )  -1   0   0  0 
 π0 中間子 ( π0 )  0   0   0  0 
 電子 ( e )  -1   0   1  1/2 
 ミュー粒子 ( μ )  -1   0   1  1/2 
 タウ粒子 ( τ )  -1   0   1  1/2 
 電子ニュートリノ ( νe )  0   0   1  1/2 
 ミューニュートリノ ( νμ )  0   0   1  1/2 
 タウニュートリノ ( ντ )  0   0   1  1/2 
 光子 ( γ )  0   0   0  1 


スピンによる分類

素粒子は、スピン  が半奇数値をもつもの Fermi (フェルミ) 粒子
と整数値をもつもの Bose (ボース) 粒子 とに大きく分けられる。

 フェルミ粒子 : スピン = (半奇数値 すなわち 1/2, 3/2, など.)
 ボース粒子 : スピン = (整数値 すなわち 0, 1, 2, など.)

フェルミ粒子は同一のエネルギー状態に1個の粒子しか入り得ないが、
ボース粒子は同一の状態に複数個の粒子が存在できる。
フェルミ粒子のことをフェルミオン fermion、
ボース粒子のことをボソン boson ともいう。
フェルミ粒子には、陽子, 中性子, 電子, ニュートリノ などがあり、
ボース粒子には、π 中間子, 光子 などがある。
一般に物質の究極的構成要素である素粒子 (陽子, 中性子, 電子) は
フェルミ粒子に属するが、力の媒介要素とされる素粒子 ( π 中間子 や 光子) は
ボース粒子に属する。


粒子数や質量による分類

素粒子は その粒子数や質量により次のようにも分類される。

 光子 photon : 重粒子数 と軽粒子数 がともに 0 であって、
           質量をもたないスピン 1 の ボース粒子.
 軽粒子 lepton : 重粒子数 が 0 の値をもつ フェルミ粒子.
            質量は約 0〜1.8 GeV/c 2 で、スピンは 1/2 .
 重粒子 baryon : 軽粒子数 が 0 の値をもつ フェルミ粒子.
             質量は約 1 GeV/c 2 以上で、スピンは 1/2 .
 中間子 meson : 重粒子数 と軽粒子数 がともに 0 であって、
            質量は約 0.13 GeV/c 2 以上の ボース粒子.
            スピンは 0 である.

ここで 重粒子と中間子を総称して ハドロン hadron という。
軽粒子には、電子 や ニュートリノ などの質量の比較的小さな物質粒子が多く、、
重粒子には、陽子 や 中性子 などのような質量の大きい物質粒子が多い。。
質量の最も大きな重粒子の例は Λb0 粒子で、約 5.6 GeV/c 2 の値をもつ。
質量の最も大きな中間子の例は ウプシロン粒子で、約 11 GeV/c 2 の値をもつ。


反粒子 antiparticle

すべて素粒子は、一つの粒子に対して一つの反粒子が存在する。
反粒子は、スピン については粒子と同じであるが、
電荷 ,重粒子数 ,軽粒子数  に関しては、すべて逆符号となる。
粒子と反粒子が全く同一となるような素粒子もある。
粒子と反粒子が同一の例としては、光子 や π0 中間子 などがある。
経験的に知られている多くの物質はすべて粒子から構成されており、
反粒子から成る物質すなわち反物質は現在のところ発見されていない。

[反粒子の量子数の例]
 素粒子の反粒子 電荷  重粒子数  軽粒子数  スピン  
 反陽子 -p  -1   -1   0  1/2 
 反電子 (陽電子)e  1   0   -1  1/2 
 反ニュートリノ -ν 0   0   -1  1/2 

粒子と反粒子が衝突し、それらがすべて消滅して他の素粒子になる現象
のことを対消滅 pair annihilation という。
例としては 約 1 MeV のエネルギーをもつ電子と陽電子が衝突すると、
対消滅し 2 個の光子 ( γ 線) になる。

  e + e →  γ + γ 

これに対して、粒子と反粒子が対になって生ずる現象のことを
対生成 pair creation という。
質量 の粒子と反粒子が生成されるためには 2mc 2 以上の
反応エネルギーが必要である。 (ただし は真空中の光速度)
一例としては

  γ → e + e




[補遺]

素粒子の量子数には、前述したものの他に以下のようなものがある。

パリティ parity (
素粒子の状態を表わす波動関数が、空間座標の反転に対して符号を変えないとき を +,
符号を変えるとき は − と決める。
ここで波動関数とは素粒子がある空間領域に存在する確率を規定するものであって、
量子力学における基本概念の一つである。
空間座標の反転とは各座標軸  を − ,− ,− にする変換のことをいう。
この変換は任意の空間点を座標原点に関する鏡像点に移す変換である。

アイソスピン isospin (  )
歴史的には、ハドロンの内部自由度を表わす量子数として導入され、整数または半奇数の値をとる。
電荷等は異なるが質量がほぼ等しい粒子類については、同一粒子の異なるアイソスピン状態と考える。
一般にアイソスピン  をもつ粒子は、2 +1 個の異なるアイソスピン状態を保ち得る。
アイソスピン  が与えられると、その第 3 成分 3 は   ,  −1,  −2  などで与えられる。
アイソスピン 1/2 をもつハドロンは、アイソスピンの第 3 成分 3
1/2 と −1/2 の 二つの異なるアイソスピン状態をとり得る。
アイソスピン 1 をもつハドロンは、アイソスピンの第 3 成分 3 が 1,0,−1
の三つの異なるアイソスピン状態をとり得る。
例えば 陽子と中性子は、アイソスピン  = 1/2 をもつ同一核子が異なるアイソスピン状態をとったもので、
陽子はアイソスピンの第 3 成分 3 が +1/2 のときで、中性子は 3 が −1/2 のときである。
また π 中間子は、 = 1 をもち、 π, π0, π は 3 が それぞれ 1, 0, −1 のときに該当する。

ストレンジネス strengeness (
ハドロンを分類し素粒子反応を系統的に記述するために用いられる内部量子数である。
例えば 陽子,中性子,π 中間子 などは  = 0 であるが、ラムダ粒子 や シグマ粒子などは  = −1,
K 中間子は  = +1 である。

ハイパーチャージ hypercharge (
ハドロンの性質を表わす量子数で重粒子数 とストレンジネス の和  である。
すなわち
  
素粒子の電荷 は、次式によって与えられる。
   3 + /2
    = 3 + ( )/2


素粒子の相互作用

素粒子間に働く各種の力の総称を、一般に 相互作用 interaction という。
この素粒子間の相互作用の結果として、原子核原子などの多粒子系が構成される。
相互作用の性質は、素粒子の散乱や崩壊などの素粒子反応に反映される。
一般に素粒子の相互作用は、ボース粒子に属する素粒子を互いに交換することによって生ずる。
例えば 電子間に働く静電気力は相互作用の一種であり、電子が互いに光子を交換すること
によって生ずるもので、電磁相互作用と呼ばれる。
また 核子間に働く核力は、核子が互いに中間子を交換することにより生じ、
これは強い相互作用と呼ばれるものに由来している。
相互作用による素粒子反応過程の前後において、電荷 や 重粒子数
並びに 軽粒子数 などの 量子数の総和 は、常に保存されており不変である。
すなわち これらの量子数が保存されないような素粒子反応は禁止される。
素粒子間の相互作用の強さを決める定数のことを 結合定数 coupling constant という。
結合定数により、相互作用は つぎの 4種類に分類される。

   種類 結合定数のオーダー
 強い相互作用     10 
 電磁相互作用     10−2 
 弱い相互作用     10−14 
 重力相互作用     10−38 



強い相互作用 strong interaction 

ハドロン や クォーク 間に働き、原子核 や ハドロン を構成する力となる。
ここで ハドロン とは、重粒子と中間子の総称である。
すなわち ハドロン (重粒子や中間子) は 強い相互作用をする粒子という意味である。
強い相互作用の媒介粒子は、グルーオン gluon と呼ばれる基本粒子である。
グルーオンは、光子と同様に質量をもたず、スピンは 1 でボース粒子に属する。
なお クォークやグルーオンについては、後述の 「クォーク模型」 において概説する。
強い相互作用によって起こる素粒子反応には次のようなものがある。

 p + p  → π + p + n ,
         K + p + Λ0
         K + Σ + n ,
         K + K + p + Ξ  など.

 π + p  → K + Σ
          K + K + Ξ0  など.

[量子数の保存の例]
p + p  → π + p + n 
 反応  p + p  π + p + n 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1+0 = 2 
 重粒子数 B  1+1 = 2  0+1+1 = 2 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 

p + p  → K + p + Λ0 
 反応  p + p  K + p + Λ0 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1+0 = 2 
 重粒子数 B  1+1 = 2  0+1+1 = 2 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 

p + p  → K + Σ + n 
 反応  p + p  K + Σ + n 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1+0 = 2 
 重粒子数 B  1+1 = 2  0+1+1 = 2 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 

p + p  → K + K + p + Ξ 
 反応  p + p  K + K + p + Ξ 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1+1+(−1) = 2 
 重粒子数 B  1+1 = 2  0+0+1+1 = 2 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0+0 = 0 

π + p  → K + Σ 
 反応  π + p  K + Σ 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1 = 2 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0 = 0 

π + p  → K + K + Ξ0 
 反応  π + p  K + K + Ξ0 
 電荷 Q  1+1 = 2  1+1+0 = 2 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 



電磁相互作用 electromagnetic interaction 

荷電粒子間に働き、原子 や 分子 などを構成する力となる。
電磁相互作用の媒介粒子は、光子 γ である。
電磁相互作用によって起こる素粒子反応には次のようなものがある。

 γ + p  →  K + Λ0
         K0 + Σ
         K + K + p ,
         K + K + Ξ
         π + K0 + Λ0  など.

[量子数の保存の例]
γ + p  →  K+ Λ0  
 反応  γ + p  K+ Λ0 
 電荷 Q  0+1 = 1  1+0 = 1 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0 = 0 

γ + p  →  K0 + Σ  
 反応  γ + p  K0 + Σ 
 電荷 Q  0+1 = 1  0+1 = 1 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0 = 0 

γ + p  →  K + K + p  
 反応  γ + p  K + K + p 
 電荷 Q  0+1 = 1  1+(−1)+1 = 1 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 

γ + p  →  K + K + Ξ  
 反応  γ + p  K + K + Ξ 
 電荷 Q  0+1 = 1  1+1+(−1) = 1 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 

γ + p  →  π + K0 + Λ0  
 反応  γ + p  π + K0 + Λ0 
 電荷 Q  0+1 = 1  1+0+0 = 1 
 重粒子数 B  0+1 = 1  0+0+1 = 1 
 軽粒子数 L  0+0 = 0  0+0+0 = 0 



弱い相互作用 weak interaction 

β 崩壊などの素粒子の崩壊を起こす力となる。
弱い相互作用の媒介粒子は ウィーク ボソン weak boson と呼ばれる基本粒子である。
ウィーク ボソンは、光子と同様にスピン 1 の値をもち、ボース粒子に属するが、
電荷や質量をもっている点が光子と異なる。
弱い相互作用は、あらゆる素粒子間において働く極めて普遍的な作用である。
したがって 軽粒子間やハドロン間、並びに 軽粒子とハドロンの間でも作用する。
また 電荷をもたない粒子間においてさえも作用する。
弱い相互作用によって起こる素粒子反応には次のようなものがある。 

軽粒子のみの反応
  μ →  e-ν + νμ  など.

軽粒子とハドロンの反応
  n  →  -ν + p + e 
  Λ  →  -ν + p + e 
  π →  μ + νμ 
  K →  μ + νμ  など.

ハドロンのみの反応
  Λ  →  p + π 
  Σ →  n + π 
  Ξ →  Λ + π 
  Ω →  Λ + K  など.

[量子数保存の例]
μ  →  e-ν + νμ 
 反応  μ     e-ν + νμ 
 電荷 Q  −1  (−1)+0+0 = −1 
 重粒子数 B  0   0+0+0 = 0 
 軽粒子数 L 1  1+(−1)+1 = 1 

n  →  -ν + p + e 
 反応  n     -ν + p + e 
 電荷 Q  0  0+1+(−1) = 0 
 重粒子数 B  1   0+1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  (−1)+0+1 = 0 

Λ  →  -ν + p + e 
 反応  Λ     -ν + p + e 
 電荷 Q  0  0+1+(−1) = 0 
 重粒子数 B  1   0+1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  (−1)+0+1 = 0 

π →  μ + νμ 
 反応  π     μ + νμ 
 電荷 Q  1  1+0 = 1 
 重粒子数 B  0   0+0 = 0 
 軽粒子数 L  0  (−1)+1 = 0 

 →  μ + νμ 
 反応  K     μ + νμ 
 電荷 Q  1  1+0 = 1 
 重粒子数 B  0   0+0 = 0 
 軽粒子数 L  0  (−1)+1 = 0 

Λ  →  p + π 
 反応  Λ     p + π 
 電荷 Q  0  1+(−1) = 0 
 重粒子数 B  1   1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  0+0 = 0 

Σ →  n + π 
 反応  Σ     n + π 
 電荷 Q  1  0+1 = 1 
 重粒子数 B  1   1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  0+0 = 0 

Ξ →  Λ + π 
 反応  Ξ     Λ + π 
 電荷 Q  −1  0+(−1) = −1 
 重粒子数 B  1   1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  0+0 = 0 

Ω →  Λ + K 
 反応  Ω     Λ + K 
 電荷 Q  −1  0+(−1) = −1 
 重粒子数 B  1   1+0 = 1 
 軽粒子数 L  0  0+0 = 0 



重力相互作用 gravitational interaction 

質量をもつ粒子間に働き、天体系などを形成する力となる。
地球の万有引力は、重力相互作用に起因する。
重力相互作用は他の相互作用に比べて極めて小さく、通常の素粒子反応では
一般に無視することができる。
重力相互作用は、重力子 graviton という仮想的な粒子により媒介される
相互作用であると考えられている。
重力子は質量や電荷をもたず、スピンの値は 2 のボース粒子である。



クォーク模型 quark model 

クォーク模型は、現在までに知られている多種類のハドロンは、さらに少数の基本的な粒子
であるところの クォーク quark から構成されていると考える理論であって、ハドロンの分類や
素粒子の高エネルギー衝突現象の説明などに多大の役割を果たした。
ここで クォーク とは、ハドロンの構成要素となる最も基本的な粒子であり、現在では
6種類のクォークが知られている。
クォークは,電荷( 2/3 または −1/3 ), 重粒子数 1/3, スピン 1/2 の値をもち、
フェルミ粒子に属する。
現在のところ、直接に観測された素粒子では分数電荷をもつものは存在していない。
すべてのクォークは カラー color という量子数をもっている。
なお カラーは 「色荷」 とも訳される。これは 「電荷」 からの類推である。
クォークのカラーには、ブルー blue,グリーン green,レッド red の 3 種類がある。
異なるカラーをもつクォーク間にはカラーによる強い引力が働き、複数のクォークの束縛状態として
多種類のハドロンが形成されるものと考えられている。
クォーク間に働く力は、クォークが互いに離れるほど大きな引力が働くという性質がある。
ハドロンは、その構成要素となるクォークのもつカラーの総和が互いに相殺するような組み合わせで
もってできているので、ハドロン自体のカラーは無色となる。
これは色の三原色からの比喩的な類推である。
クォークはこのようなカラー量子数をもつために、クォーク自身は常にハドロンの中に閉じ込められており、
クォーク単独では決して観測されることはない。
クォーク間の力は強い相互作用であり、グルーオン gluon という基本粒子が媒介している。
グルーオンは質量や電荷を持たず、スピンの値は 1 でボース粒子に属する。
グルーオンは 2 種のカラーの組み合わせを持ち、全部で 8 種類のグルーオンがある。

クォークの種類と量子数 :
クォーク呼称有効質量
(GeV/c 2)
 電荷
  
重粒子数
  
アイソスピン
 I
アイソスピンの第3成分
   3
チャーム量子数
 
ストレンジ量子数
 
トップ量子数
 
ボトム量子数
 
  uアップ  0.3   2/3 1/3 1/2   1/2 0 0  0 0
  dダウン  0.3  −1/3 1/3 1/2  −1/2 0 0  0 0
  cチャーム  1.5   2/3 1/3 0  0 1 0  0 0
  sストレンジ  0.5  −1/3 1/3 0  0 0 −1  0 0
  tトップ  175   2/3 1/3 0  0 0 0  1 0
  bボトム   5  −1/3 1/3 0  0 0 0  0 −1

クォークの種類 u, d, c, s, t, b のことを クォークの フレーバー flavor という。
クォークの量子数の間にはつぎのような関係がある。
   3 + ( B+S+C+T+ )/2
ハイパーチャージ  とすると
  B+S+C+T+
である。
なお 反クォークについては、上表において有効質量とアイソスピン  は変わらないが、
その他の量子数の符号は逆になる。


[例] 重粒子については、下表に示すように 3 個のクォークの組み合わせによって構成される。

 重粒子の種類 

 構成クォーク 

 質量 (MeV/c 2) 

  主な崩壊様式   

陽子 p 

  uud 

 938.27 

 安定

中性子 n

  udd

 939.56 

 -νp e  

デルタ粒子  

   Δ++

  uuu 

1230〜1670 

 Nπ, Nππ  

   Δ

  uud 

   Δ0

  udd 

   Δ

  ddd 

シグマ粒子

   Σ

  uus

 1189.37 

 pπ0, nπ+ 

   Σ0

  uds 

 1192.55 

 Λ0 γ 

   Σ

  dds 

 1197.43 

 nπ 

ラムダ粒子 Λ0

  uds

 1115.68 

 pπ, nπ0

グザイ粒子

   Ξ0

  uss 

 1314.9 

 Λ0 π0 

   Ξ

  dss 

 1321.32 

 Λ0 π 

オメガ粒子 Ω

  sss 

 1672.45 

 Λ0, Ξ0 π− 

Σ 粒子

   Σ++

  uuc 

 2452.9 

 Λ π+ 

   Σ

  udc 

 2453.5 

 Λ π0 

   Σ0

  ddc 

 2452.1 

 Λ π 

Λ 粒子 Λ

  udc 

 2593.6 

 pK π 

Ξ 粒子

   Ξ

  usc 

 2465.6 

 Λ0 π π+ 

   Ξ0

  dsc 

 2470.3 

 Ξ π

Ω 粒子 Ω0

  ssc 

 2704 

 Σ π+ 


[例] 中間子については、下表に示すようにクォークと反クォークの対によって構成される。

 中間子の種類 

 構成クォーク 

質量 (MeV/c 2)

 主な崩壊様式 

π中間子

 

  π 

  -du

 139.57 

 μ νμ 

  π0 

 -uu−-dd 

 134.97 

 γ γ 

  π 

  -ud 

 139.57 

 μ νμ 

K中間子

  Κ

  -su 

 493.67 

 μ νμ 

  Κ0 , -0 

  -ds ,  -sd 

 497.67 

 π π, π0π0

  Κ 

  -su 

 493.67 

 μ νμ 

D中間子

  D

  -dc 

 1869.3 

 K0 μ νμ

  D0, -0 

 -uc , -cu 

 1864.5 

π, K ν

  D

  -cd 

 1869.3

 μ νμ 

B中間子

  B

  -bu 

 5278.9 

 D0 μ νμ 

  B0, -0 

  -bd , -db 

 5279.2

 D μ νμ 

  B

  -ub 

 5278.9 

 D0 μ νμ 


現在 ハドロンに関しては基本粒子クォークから形成された複合粒子と考えられているが、
その他の素粒子 (軽粒子,光子,グルーオン, ウィーク ボソン など) は
現在のところではまだ基本的な粒子であると看做されている。
ただし 理論上の学説としてはハドロン以外の素粒子も複合粒子であると考える研究がある。

[例]
β 崩壊 (弱い相互作用)
  n  →  -ν+ p +e 
について クォーク模型を用いて表わすと、
  udd  →  -ν+ uud +e 
となるので、クォークの反応として考えると
  d  →  -ν+ u +e 
のように記せる。

[例]
核力 (強い相互作用)
  n  →  p + π 
について クォーク模型を用いて表わすと、
  udd  →  uud + -ud 
となる。
 
一般に弱い相互作用ではクォークの種類が変化するが、
強い相互作用においてはクォークの種類は変わらずにクォークの
組み合わせのみが変化する。





演習問題 2


次の文章の( )中に適当な語句や式を下欄より選び、その記号を入れよ。

[1] フェルミ粒子はスピンが(  )の値をもつ粒子であり、ボース粒子は
    スピンが(  )の値をもつ粒子のことをいう。
   (a) 偶数  (b) 奇数  (c) 整数  (d) 自然数  (e) 半奇数

[2] 重粒子数が 0 の値をもつ フェルミ粒子を(  )という。
    軽粒子数が 0 の値をもつ フェルミ粒子を(  )という。
    軽粒子数,重粒子数,スピンが ともに 0 の粒子には(  )
    などが ある。
    軽粒子数,重粒子数,質量がともに 0 の ボース粒子には(  )
    などが ある。
   (a) 光子  (b) 軽粒子  (c) 重粒子  (d) 中間子 

[3] 素粒子のもつ量子数の中、反粒子でも符号が変わらないものには、
   (  )がある。
   (a) 電荷  (b) 重粒子数  (c) 軽粒子数  (d) スピン

[4] 粒子と反粒子が全く同一となるような素粒子には、
   (  ),(  )などがある。
   (a) 電子  (b) 光子  (c) 陽子  (d) π0中間子

[5] 質量 の粒子と反粒子が対生成されるためには(  )以上の
    反応エネルギーが必要である。ただし は真空中の光速度である。
   (a) mc  (b) mc 2  (c) 2mc  (d) 2mc 2  (e) 2 2 (f) 2 2 2

[6] ハドロン間にのみはたらく相互作用は(  )である。
    β崩壊を起こす相互作用は(  )である。
    粒子が互いに光子を交換することによって生ずる相互作用は
   (  )である。
    質量をもつ粒子間には必ず存在する極めて小さい相互作用は
   (  )である。
   (a) 電磁相互作用  (b) 弱い相互作用  (c) 強い相互作用  (d) 重力相互作用

[7] 約 1MeVのエネルギーをもつ電子と陽電子が衝突すると、対消滅し
    2個の(  )になる。
   (a) 陽子  (b) 中性子  (c) 光子  (d) π 中間子  (e) ニュートリノ

[8] 基本粒子であるクォークの電荷は分数値(  )または(  )をもち、
    さらに重粒子数についても分数値(  )をもつ。
    また クォ−クのスピンは(  )の値である。
   (a) 1/6  (b) 1/3  (c) 1/2  (d) 2/3  (e) −1/6  (f) −1/3

[9] クォークの種類数は(  )つあり、それぞれのクォ−クはカラーという
    量子数をもっている。このカラーの種類数は(  )つである。
   (a) 2  (b) 3  (c) 4  (d) 5  (e) 6  (f) 7

[10] クォーク間には(  )という基本粒子が媒介する力(強い相互作用)
     が働き、クォークの束縛状態としての素粒子である(  )が構成される。
   (a) 光子  (b) 軽粒子  (c) ハドロン  (d) グルーオン  

[11] グルーオンの電荷は(  )であり、スピンの値は(  )である。
   (a) 1  (b) 2/3  (c) 1/3  (d) 0  (e) −1/3  (f) −2/3

[12] 重力子の電荷は(  )で、スピンの値は(  )であると考えられている。
   (a) 2  (b) 1  (c) 1/2  (d) 0  (e) −1/2  (f) −1



 演習問題 2 の答え合わせはここをクリックして下さい。







 付録 2


[素粒子の質量と平均寿命]

 名称 

 記号 

 質量 (MeV/c 2

 平均寿命 (秒)

 光子

 γ

 0

  

 (軽粒子)

 

 

 

 電子ニュートリノ

 νe 

 約 0 

 安定 

 電子 

 e 

 0.51099907 

 安定 

 ミューニュートリノ 

 νμ 

 約 0

 

 ミュー粒子 

 μ 

 105.658389

 2.19703×10−6

 タウニュートリノ

 ντ 

 約 0

 

 タウ粒子 

 τ 

 1777.00 

 2.90×10−13

 (重粒子) 

 

 

 

 陽子 

 p 

 938.27231

 安定 

 中性子 

 n 

 939.56563

 887.0

 ラムダ粒子 

 ∧ 

 1115.684

 2.632×10−10

 シグマ粒子 

 Σ 

 1189.37

 0.799×10−10

 

 Σ0 

 1192.55

 7.4×10−20

 

 Σ 

 1197.436

 1.479×10−10

 グザイ粒子 

 Ξ0 

 1314.9

 2.90×10−10

 

 Ξ 

 1321.32

 1.639×10−10

 オメガ粒子 

 Ω 

 1672.45

 0.822×10−10

 (中間子) 

 

 

 

 π 中間子 

 π 

 139.56995

 2.6033×10−8

 

 π0 

 134.9764

 8.4×10−17

 

 π 

 139.56995

 2.6033×10−8

 イータ中間子 

 η 

 547.45

 2.5×10−19

 K中間子 

 K 

 493.677

 1.2386×10−8

 

 K0 

 497.672

K0S 0.8927×10−10

 

 

 

K0L 5.17×10−8





[ 参考文献 2 ]

Review of Particle Properties,  Particle Data Group,  Berkeley
素粒子物理学   坂井典佑 著   培風館
素粒子物理学 原康夫 著   裳華房
物質の窮極を探る   日本物理学会 編   培風館
究極理論への夢   S.ワインバーグ 著   ダイヤモンド社